†パープルタイズ†


【出題編】


  5/

 翌日の放課後、つい先日、由咲ちゃんに型を披露した空手道場に、今度はモダと二人で芙毬は赴いていた。
 違うのは、モダが最新式と思われるデジタルビデオカメラをはじめ、色々と仰々しい撮影器具を持ち込んでいる点である。
 それにしても……。
「やっぱ、微妙な気がするなぁ。空手の型のビデオ販売って。そういうビデオ、そこでも売ってるよ?」
 芙毬が、道場入り口の受付部分を親指で指す。もっとも、先日に引き続き本日も休館日なのを幸いにとコネで使わせて貰っているため、受付の部屋の電気は消えていて静まりかえってるけど。
「ニーズがある所に、それを満たす商品を提供する。それがビジネスの基本だ。俺たちがこれから作るのは、従来の教本的意味合いをもった型の練習用ビデオとは違ったニーズを満たす商品だ。それを適切なニーズがある所に適切な手法で届けると……。まあ、見てろ、結構、面白いことになるぜ?」
 昨日、このアイデアを芙毬に伝えてから、モダは一貫して自信たっぷりである。そのわりには、肝心の適切なニーズとはどういうものなのかとか、適切な手法が何なのかとかはまだ教えてくれないのが、なんかいやらしい感じなんだけど。
「とにかく、収録される型は綺麗な方がいい。本気で頼むよ」
 行く先に若干の疑問を持ちながらも、芙毬は道場内の床に貼られた開始線の上に立って、言われた通り型の演舞を始めることにする。
 
 結局、そのまま平安(ピンアン)初段から壱百零八(スーパーリンペイ)まで、芙毬が演舞可能なありとあらゆる型の演舞を行い、そしてその全てをビデオカメラに収録した。
 撮影の最中、モダはしきりに、「いい、いいよこれ」とか、「綺麗だ」とか、「可愛いよ巫奈守」とか言っていた。「可愛い」は空手の型の評価としては違うよなんて思いつつ、何となくだけど、モダの評価は芙毬にとって嬉しかった。やっぱり、長い間頑張ってきたものを褒められるっていうのは嬉しい。
 全ての収録を終えた時にはもうくたくたになっていたけど、その疲れも心地よかった。簡単に言えば、楽しい収録だった。そういえば、学園長が、ビジネスの本質は「楽しさ」を届けることなんて言ってた気がする。だとしたら、自分が感じた「楽しさ」が誰かに届けば嬉しい。そんなことを考えながら、芙毬は道場内でラップトップパソコンを開き早速何やら作業しているモダを横目に、神前に一礼して控え室へと戻っていった。

  ◇

 次の日からの作業はまる三日かかった。いや、「作業」と言うと楽しくないことのような響きがあるけれど、芙毬としては楽しい「活動」の日々だった。
――巫奈守の仕事は一ページのセールスページをつくること。
 これがモダに言い置かれた芙毬の課題だった。ここで言う一ページは、当然WEBページのことである。芙毬の型を収録したビデオだけれど、町中に行商に出て売れるわけは勿論ないので、そこは、時代の武器、インターネットを使っての販売となる。その点には芙毬もまったく異論がなかった。
 ゆえに、現在芙毬はインターネット上にアップする、ビデオの販売ページを作っているわけだ。どうやら購入してくれた人にはデジタル形式のままWEB経由で送っちゃうみたいだから、映像配信コンテンツのセールスページと言った方が適切だろうか。
 芙毬がこの活動の何に楽しさを見つけたのかというと、ずばり、数稽古と、それに応じた適切なリターンだ。
 まず、芙毬はセールスページの文章をとにかく書いてみる。そして、それをオークションサイトにアップしてみる。ビデオはまだ未完成なので、抜粋版のプロモーション映像(モダの力作で、その出来は芙毬も認める所だ)だけがダウンロードできるようになってるのだけど、とにかく、今の時代オークションサイトも便利になったもので、何人の人がセールスページにアクセスしてくれて、何人の人がプロモーション映像のダウンロートまでしてくれたかが、統計的な数値で芙毬の元に分かるようになっている。それで、何度も何度もセールスページの修正を繰り返しては、より優れた、より良い数値をたたき出す、言うなれば美しいセールスページへと磨き上げていくのだ。その感じが、何だか、昔、空手の型を覚えた時の、動作の微修正を繰り返しながら型を一つの美しい完成形に向かって練り上げていく感じに似ていて、そこに芙毬は楽しさを見いだした。こうして、幾度と無い数稽古を繰り返し、徐々に高みに近づいていく感じは心がワクワクする。その感覚が、空手とは形を変えてこうしてパソコンに向かっていても感じられるのが、芙毬には無性に嬉しかった。
 セールスページの作成も繰り返しているうちに、色々分かってきた。例えば、オークションページのトップに表示される短いフレーズは、「空手の型のビデオ販売します」よりは、「現役女子高生による空手の型完全演舞!」の方が格段にアクセス数が多いことが分かった。ちゃんとやれば、やっただけ、アクセス数やダウンロード数という形でリターンがある。この点も、ちゃんと美しい型を演舞すれば心地よい称賛が待っている空手の型に通じるものがあった。
 そんなこんなで、小さな気づきを繰り返しては修正し、また気付いては修正し……ということを繰り返して、ついにアクセス数1000/日、ダウンロード数100/日のセールスページを作り上げた時は、なんというかもう、初めて壱百零八(スーパーリンペイ)の型をノーミスでやりきって先生から褒められた時のような感動が芙毬の胸に押し寄せてきた。
 モダ、確かに、あんたと組んだのは正解だったのかもしれない。楽しい作業と、ビジネスの道筋を示してくれたモダに芙毬は心の中でこっそりと、それでいて深く感謝した。ビジネスというものに初めて楽しさを覚え、リディ的っていうのも悪くないと、そう思った。
――由咲ちゃん、芙毬は頑張ってるよ。
 だから、はやく会いたいなと、そんな夢心地で芙毬は由咲ちゃんと離れてから数日目の夜の眠りにつくのであった。
 
 ◇

 さらに数日経った土曜日の午後、芙毬のもとに、ついに由咲ちゃんからのメールが届いた。ビジネスのセールスページ作りに没頭する間も由咲ちゃんのことを忘れたわけではなかった。由咲ちゃんの言いつけを破って、何度も連絡を試みたのだけど、電話に出てもくれなければ、メールに返信もくれなかった。そんな由咲ちゃんからの、待ちに待ったメールだった。
 待ち合わせ場所を指定しているメールだった。その待ち合わせ場所を最初に読んだ時、芙毬の頭には大いにハテナマークが浮かんだのだけど、その時の芙毬にはもはや関係なかった。由咲ちゃんに会える。ただ、そのことが芙毬にとっては大きな喜びで、他のいかなる疑問もその時はかき消えてしまっていたのだから。
 
 ◇

 やつれていたので驚いた。
 休日だと言うのにリディの制服姿で現れた由咲ちゃんは、目の下が腫れぼったく、頬の辺りもついこの前別れた時よりも随分と痩せた印象を芙毬に与えた。
「やあ、芙毬、久しぶりだね」
 そう口にする美しい声と、瞳の輝きだけが色褪せていなかった。だけど、瞳の方の輝きは、以前とは質の違う、なにやらくぐもった妖しい輝きに見える。
「さっそくだが、そこの掲示板に貼ってある広告を見てみてくれるか」
 由咲ちゃんが親指で、待ち合わせ場所の前に設置されていた掲示板を指した。
 芙毬は言われたままにその掲示板を眺める。

――降神ブレイン教会。

 そして眉をひそめる。そう、メールが送られてきた時から待ち合わせ場所には違和感があった。由咲ちゃんが指定してきた場所は、街の片隅に構えられた新興宗教組織の集会所の前だったのだ。
「由咲ちゃん、一体……?」
 芙毬には聞きたいことが山ほどある。無意味にこんな場所を指定する人とも思えない。その真意が、知りたい。
「いいから、もう少し、読み進めてくれたまえ……」
 しょうがないので読み進める。

――今、あなたが自分だと認識しているあなたは、本当のあなたではない。

 そしてまた眉をひそめる。
「どうかね、中々のキャッチコピーだとは思わないかね?」
 キャッチコピー? この宗教だか哲学だか形而上学だか分からない意味不明の文章が?
「由咲ちゃん、私、実は由咲ちゃんと会えない間、セールスページ作りの数稽古をやっていたの。だから、キャッチコピーには今敏感な方だと思うんだけど、これはちょっと意味不明というか、あんまりいいキャッチコピーとは思えないんだけど」
 どうしても由咲ちゃんがこの文章を話題にしたいようなので、素直な感想を述べてみる。
「なるほど、セールスページ作りの練習をね。それはいいことだ。セールスはビジネスにとって非常に重要な要素だよ」
 そう言って由咲ちゃんは、その意味不明な文章が掲げられた掲示板をバンと勢いよく叩いた。
「だが、これを幼稚なキャッチコピーと断じられる芙毬はやはりまだ視野がせまい。適切なニーズがある場所へ、適切な言葉を……。その法則にマッチした時、ある種の文字列は強力で優秀なセールスレターになり得る」
 どこかで聞いたような言い回しだ。確か、モダが芙毬をビジネスに誘った時も、そんなことを言っていた気がする。適切な……、ニーズ?
「犯人は悪魔のビジネスを発想し、まさに実行に移さんとしたのさ」
 そう言って由咲ちゃんが掲示板にもたれかかる。顔色が悪く、辛そうな表情をしていたので、思わず体を支える。
 犯人?
 悪魔のビジネス?
「大丈夫、少し目眩がしただけだ」
 そう言って気丈を装う由咲ちゃんだったが、体重の大部分を芙毬の方にかけてもたれかかる様な状態になる。
 目眩……?
 そう言えば、由咲ちゃんと初めて親しく会話した時、芙毬は、由咲ちゃんから同じ言葉を聞いていなかったっけ? そして、もっと最近。そう、セッチャンだ。セッチャンも目眩を……?
 何かが、繋がりそうで繋がらない。頭の中が、混乱だけに覆われそうになる。ちょうど、メインサーバールームの密室の謎を前に頭がこんがらがってしまったあの時のように。
「芙毬は、私に聞きたいことが沢山あるだろう。そして、おそらくその大部分に私は答えることができる」
 由咲ちゃんが消え入りそうな声で、芙毬の耳元に囁(ささや)いた。
「教えてくれるの?」
 混乱する頭を整理したい、謎の答えを教えて欲しいという芙毬の前に、何とも魅力的な一本の糸が垂らされた。これが、ニーズの前に、その欲する所を与えんとするビジネスの基本というものだろうか。今、芙毬の頭の混乱を治めてくれるなら、頭を悩ませる謎の答えを教えてくれるなら、芙毬はかなり沢山のお金を払ってもいいとすら思っている。
「それは君次第だ」
 そう言って由咲ちゃんは芙毬にもたれかかっていた手を放し、危うげに自分の両足で立つと、こう続けた。
「だが少し移動しよう。邪魔が入った」
 そう囁く由咲ちゃんの視線の先には、スーツ姿の二人組の男の人の姿があった。あちらは、まだこっちには気付いていないらしい。
 そのうちの一人に、芙毬は見覚えがあった。あの特徴的なホクロ。あれは、確か、学園長の部屋を調べに来ていた警察の人じゃ?
 もう、何が何だか芙毬には分からなかった。
 
 ◇

「聞きたいこと、教えてくれるかどうか私次第って、どういうこと?」
 新興宗教組織の集会所から、近くの公園の休憩スペースまで移動してきた芙毬と由咲ちゃんは、ベンチに座って一息入れる格好となった。芙毬は脇に設置されていた自動販売機から購入した缶ジュースを一くち口にしながら、早速質問に入る。無性に喉が渇いていた。
「私が今から聞く質問に、芙毬がどう答えるかということだ。答えによっては全てを教えてもいいし、答えによっては全てを教えるわけにはいかない」
 「水がいい」と言ってミネラルウォーターを購入した由咲ちゃんがそう返答する。
「うん……。何?」
 芙毬としてはこう答えるしかない。メインサーバーに何者かが侵入したと伝えられたあの日の朝から狂い始めた何かを紐解く鍵は、最早由咲ちゃんに委ねられている。いや、由咲ちゃんのその言い方だと、芙毬の答えに委ねられているのか。どちらにしろ、芙毬は受け身に待つしかない。
 そして、一口ミネラルウォーターに口をつけると、意を決した様に由咲ちゃんは口にした。
――芙毬、君は、私と共にパープルタイになるつもりはないか?
 確かに由咲ちゃんはそう言った。
 この前、モダに聞かれた問いと重なっていることに驚いた。でも、それなら、芙毬の答えは決まっている。一度モダを相手にシミュレーションしてる分、今ならもう少し適切に芙毬の気持ちを由咲ちゃん本人に伝えられるかもしれない。
「私は……パープルタイにはならないよ。由咲ちゃんには話したけど、私がリディにやってきたのは、何て言うか、世の中がダメじゃないってことを証明したかったからなの。そのためには、別に沢山のお金は必要ないんじゃないかっていうのが私の今の考え。こんなことを言うと、それこそ産業時代的とか言われちゃうのかもしれないけれど、お金が無くたって、ダメじゃないものはダメじゃないもの。だから、パープルタイになるほどのお金は、今の所目的じゃないの。それにね。由咲ちゃんと組んでパープルタイを目指したら、きっと、私と由咲ちゃんの関係を『人脈』だって言う人が出てくる。それって、なんか悔しいというか。私と、由咲ちゃんは、パープルタイを付けてようが、付けてなかろうが、『友だち』じゃない。ねぇ?」
 できるだけ、言葉を尽くして伝えたつもりだった。由咲ちゃんも、瞳を逸らさないで真剣に聞いてくれたように見えた。
 だけど……。
「分かった。ならば君には何も話せない」
 それが由咲ちゃんの回答だった。
 芙毬の答えは、由咲ちゃんが望むものではなかった? 由咲ちゃんと共にパープルタイになるなら答えてくれて。ならないなら答えてくれない? それはどうして?
 由咲ちゃんは立ち上がり、もう芙毬には用が無いとでも言うように歩き始める。
「待って!」
 懇願するような叫び声をあげて、由咲ちゃんの肩に手をかける。
「気に障ることを言っちゃったんなら謝る。だから、理由を聞かせて!」
 芙毬の力に掌握される形で、由咲ちゃんが肩をぐらりと揺らす。
「ごめ……」
 芙毬がそう言いかけた所で、おぼつかない足取りの由咲ちゃんは、何やら携帯電話を取り出して言った。
「君は何も謝ることは無い。先ほどの問いへの君の答えも、君が抱いている信念も正しい。だが、君と私が『友だち』というのはどうだろう?」
 そう言って、虚ろな瞳のまま、携帯のボタンを押した。

――来た、来たよコレ!

――ほわわ。これが噂の……。

――リンガーラップ……。

 突如、聞き覚えがある声が携帯から発されて、芙毬の思考が止まる。
 これは、モダと、セッチャンと、そして、芙毬の声?
「覚えがないかな? 私が初めて君たちにバームクーヘンを焼いて渡した時の、君たちの会話だ」
 思考が、ますます霞んでゆく。え、でも、あの時由咲ちゃんは用事があるからって教室から出ていって……。
「君たちの会話を、君たちから遠く離れた所で聞きながら、君たちが私にとって害が無い存在かどうか確かめていたのさ。君たちは想像以上にお気楽だったからな。結果、害が無いと私は判断して、少しだけ近づいてみた。ただ、それだけだ。そんな私が、『友だち』とやらと言えるかね?」
 芙毬の方も目眩を覚えそうになっていた。
「リンガーラップの録音時間は四十五分。そして、デフォルトでこそその機能は無いが、ある程度知識のあるものがカスタマイズすることで、遠隔で録音のスイッチを入れることができるようになる。あとはそうやって遠くから録音した音源をパソコンに残して聞こうが、こうして携帯に保存しようが、別のリンガーラップに再録しようが思うがままだ。
「こんな、茶目っ気だけのおバカ商品が、本当にバカ売れすると思っていたかね。売れたのは、この裏のニーズが在ったからだよ。そろそろ、君も分かっただろう? 適切なニーズのもとへ、適切な商品を。それがビジネスの基本だとして、このリンガーラップの場合の適切なニーズとは……「盗聴」のことだ。
「めくるめく変態どもが女子トイレにリンガーラップを仕掛けるかもしれないし、敵対する他者に対して、弱みを握るために悪意を持って回りにリンガーラップを忍び込ませるものが現れるかもしれない。私は、そういう事態があり得ると途中で気付きながら、それでもこの商品を実現化し公にした。何故って? お金のためだよ。パープルタイになるためだよ。フフ、ふざけた話だよな。犯人が構想した悪魔のビジネスと、大差無い……。私って人間は、所詮そんなもんなんだ」
 そこまで喋り続けて、最後に芙毬の手を払いのけると、由咲ちゃんは、瞳を芙毬から逸らして、こう言った。 「もう、加速する空に脅えて過ごすことに私は疲れた。何もかもどうでもよくなった。それが、今の正直な気持ちだ」
 芙毬の方を振り返らず、歩き始める。
「私はリディをやめようと思う。君がどう思っているかは知らないが、私も、世の中も、想像以上に、もうダメなんだ」
 
 ◇

 その日の夜は、ただ、ベッドの中で泣いた。
 由咲ちゃんが芙毬達を盗聴していたことは勿論ショックだったけど、それだけじゃない。
 由咲ちゃんが、「もうダメだ」って、あの修学旅行の打ち明け話の時から、芙毬が一番嫌っていた言葉を言ったから。
 誰にも、「もうダメだ」なんて言って欲しくないから、リディに来たのに。
 世の中はダメなんかじゃないって、証明したくてリディに来たのに。
 あなたはダメなんかじゃないって、伝えたくて、リディに来たのに。
 心が、通じ合えたと思っていた由咲ちゃんから、結局その言葉を聞いてしまって、つまりは、芙毬がリディにやって来たって、何も変わらなかったということで……。
 何故だか、失恋した時よりも、ずっとずっと胸が切なかった。
 だから、ただ枕に顔を埋めて、ただ、泣いた。
 
 ◇

 次の日の日曜日は、リディの屋上で空を眺めた。休日だけど、一応学園内に入るということで制服を着込んで、朝から、ただ、空を眺めていた。
 由咲ちゃんは、空が怖いと言っていた。どうして? こんなに綺麗なのに。太陽だって、出てるのに。
 行儀が悪いとか、知ったことではなかった。そのまま、ゴロンと屋上のアスファルトの上に仰向けになって空を見上げる。
 結局、分からないことだらけのまま、由咲ちゃんの「ダメなんだ」という言葉だけが胸にこだましていた。そもそも、全てがおかしくなりはじめたあの日の朝に伝えられた、メインサーバールーム侵入事件とはなんだったのだろう? いや、分からないことはまだまだある。

・学園長室は何のために荒らされたのだろう?
・メインサーバールームは何のために侵入されたのだろう?
・どうやって犯人はあの音声認証装置を破ってメインサーバールームに入ったのだろう?
・由咲ちゃんが言っていた犯人とは何者なんだろう?
・由咲ちゃんが言っていた、犯人が考え出した「悪魔のビジネス」とは何なのだろう?
・そして、由咲ちゃんは今、何を思っているのだろう?

 全てが分からなくて、途方に暮れたくなる。いっそ、空なんか見ないで、うつぶせになって、瞳を閉じてしまおうかなんて思う。
 もしかしたら、芙毬の勘違いで、世の中も、人も、もしかしたらもう……
 そこまで弱音が過ぎった所で、「よう」と聞き慣れた声が耳に入った。
 モダ?
「空フェチの巫奈守、空に近い場所で発見。これ、俺にも探偵スキル来たよこれ」
 屋上のアスファルトの上に仰向けになりながら、見上げる形になったので、太陽の光がモダの眼鏡に反射して、異様に眩しかった。
「巫奈守、今のお前は、なんだか分からないことだらけで途方に暮れているだろう?」
 まさか、そんな眼鏡の光が、希望の光だとは誰が思っただろうか。モダは、自信満々に、こんなことを言ってのけた。
「お前を悩ませている謎の数々に、今の俺なら、パーフェクトに答えてやることができるぜ?」
 と。

      <【解答編】へ続く>

【解答編】情報&ミステリチャレンジ






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