†催眠恋愛†


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  ◇

「島田直樹」
 そう呼び止めた桔梗の姿は、先日リサーチの時に直樹と接触したその時のものではない。顔をあからさまにし、その目が眩むほどの美貌を臆面もなくさらしている。
「君……は?」
 学習室に続く廊下、先日聡子がパニックを起こしたまさにその場で桔梗に呼び止められた直樹はとまどいの表情を浮かべる。
「分からないかね。ならこれでどうかね?」
 桔梗は、肩から提げたポーチから先日纏っていた眼鏡と帽子を取り出し、一時的に装着する。
「あ、ああ、校門でぶつかった? 君、この学校の生徒じゃなかったんだ」
「いかにも。いくら私服の高校とはいえ、こんな格好の生徒がいたら目立って君の目にもとまっていたことだろう」
 帽子と眼鏡を再びポーチにしまい、桔梗は堂々と胸を張る。
「確かに、ちょっと派手だね」
 直樹は淡々と桔梗の姿を上から下まで眺めると、そんな感想をもらした。美貌に、気後れした様子は無い。
「フム。ゴシックロリータは私に言わせれば芸術だがね。だが、そんなことは今はいい。単刀直入に用件だけ言おう。柊聡子が先日の謝罪も兼ねて、改めて君と会いたがっている。今度の日曜日、もうイヴの一週間前になるがね。どうだね?」
「柊さん? 柊さんの知り合いなの? 君?」
「ああ、友人だよ。彼女はあがり症というか対人恐怖症の気があってね。君と話している間にその発作が出たのを非常に気に病んでいる。だから、こうして友人の私が仲介で対話出来る場を再設定しているわけだ。駅裏のカフェ、『リディーエル』でどうだい?」
「学校じゃダメなの? 僕もちょっと気になってはいたけど。別に失礼されたとかは思ってないから。そんなに改まらなくていいと思うけど?」
「ところが、聡子は学校だと対人恐怖症が出やすくてね。一緒に町に出てくれると助かるのだが」
 そこで直樹は思案するように数秒沈黙した。
「やっぱり難しいな。日曜日は普通に部活があるし。それに、そんなに面識の無い女の子といきなり町で二人というのも憚られる。勿論柊さんがキライとかじゃないけどさ」
「フム、君は本当に優等生だな」
 桔梗は、ここまでは予想通りだと笑いをかみ殺す。
「私も同席するから、二人切りということは無い」
「君も?」
「ああ、私もだ。美少女二人、悪い条件ではあるまい。それに、そんなこと以上に、この会合は極めて君のためになると私は思うがね」
「僕のため?」
 そこで、直樹をこの聡子と桔梗との変則デートに誘う切り札を投下する。
「彼女は君の理想に興味があると言っているからだ」
「僕の理想?」
 そこで、その言葉を口にする。
「世界平和」
 直樹が拳を握りしめるのを桔梗は見逃さなかった。獲物は釣り針にかかった。
「そして、私は君にはその理想が実現できないことを教えてあげることができる」
 直樹の顔色が変わる。性格上平静を保とうとしているが、内に怒気のようなものを宿らせているのが分かる。
「僕と大して面識も無い君が、何故そんなことを言うの?」
「日曜日に来れば分かるさ」
 獲物は完全に引き上げられた。
「分かった。部活は休むよ。次の日曜日だね」
 直樹はそう答えた。

  ◇

 日曜日の変則デート当日。桔梗が拠点としているゴスロリショップの店内にて、支度中の桔梗を待つ聡子の姿があった。
「ケケケ、浮かない顔をしてるね、お嬢ちゃん。今日が恋愛成就の天王山だろう。もう少しテンションあげていったらどうだい?」
 カウンターの脇に椅子を勧められて座って待っていた聡子に、レンが声をかける。
「レンさん。私、今日、桔梗と一緒に直樹くんと会うこと、正直疑問でした。私が一人じゃ頼りないのは百も承知なんですけど、それにしても、その、桔梗は美しすぎて、直樹くんは私になんか見向きもしなくなっちゃうんじゃないかって」
「まあ、ご主人は美人だからね。ふだんお客と会う時にローブで顔を隠しているのも、男のお客には惚れられ、女のお客には妬まれと、大変だからさ」
「だから私、思い切って桔梗に言ってみたんです。私より、桔梗が魅力的では困る、と」
「ご主人は何て?」
「はい。桔梗が言うには、今日の桔梗は敵なんだそうです。国家も、内部で団結するには敵国を想定するのが常だという例をあげていました。そして、敵は強敵の方が、団結感は高まると。団結感というのは私と直樹くんとの親密さを指しているのだと思います。美しい桔梗を敵として攻撃することで、私と直樹くんは親密になるのだと」
「ケケケ、正解だ。オレも、何回かご主人がその手を使うケースを見たことがあるぜ。大丈夫、有効な手段だからご主人を信じなよ」
「でも!」
 レンは聡子を浮かない顔だと言う。聡子は、自分がそんな顔をしている原因を、何とか言葉にしようと頭を回転させる。
「何か、おかしくないですか? 敵を作って攻撃することで、自分達だけが幸せになるって? 桔梗だけ貧乏くじを引いているというか、その、もっと、皆で幸せになれればいいのにって」
 お客がいないことをいいことに、レンはカウンターに腰掛けると、椅子に座っている聡子を見下ろす形で視線を向けてきた。年齢的にはレンの方が遥に少年なのだが、その視線があまりに大人びていて、聡子は戸惑う。
「あのな、お嬢ちゃん。お節介だとは思うが、ちょいとだけ哲学的な話を聞いてくれるかい?」
「はい」
 レンの口調は押しつける風でなく、あくまで紳士的だ。だからこちらも誠意を持って、年長者に対するように居住まいを正した。
「これはご主人の受け売りだがね、世の中には『普通の幸せ』と『過酷な幸せ』とがあるんだ。お嬢ちゃんはこの前、普通の幸せに憧れてご主人のもとに来たと言っていたね。だったら、そんなことは考えちゃいけない。『普通の幸せ』を追う者は、『過酷な幸せ』を追う者を攻撃することで幸せになっていくものなんだ。ご主人は『過酷な幸せ』を追っている人だからね。適任なんだ。存分に攻撃すればいい。ご主人もそれを望んでいるんだし、今までもそうやって『普通の幸せ』を求める沢山の恋人達を作り上げてきた。だから、何もお嬢ちゃんがそんなことを考えることはないんだ」
 レンの口調はあくまで優しかった。心から、聡子のことを想ってくれている。そのことを聡子は疑わなかった。
「これ、ナイショでつけて行け」
 レンは、そういって見慣れたシールを差し出した。桔梗が所持する所の次世代通信機器、リンガーサークルである。
「こっそり、オレもアドバイスしてやる」
 言葉の隅々から、レンの気遣いが滲み出ている。
「ありがとうございます」
 だからそう言って素直に受け取った。

 ただ、それだけの出立前の時間だったのだけれど、何故だか、その時のレンとの会話だけで、聡子はレンが誰とイヴの日を過ごしたがっているのかが分かってしまった。
(レンさんはどちらの幸せを求めているのですか?)
 出かかったその問いを飲み込んで、今は自分のことが大事だと、そう、聡子は自身に言い聞かせた。

  ◇

 カフェ「リディーエル」の前には約束の時間の五分前には聡子と桔梗、そして直樹くんも集まっていて、聡子はそこでまずは先日の非礼を直樹に詫びた。
「恐怖症ってほどじゃないけど、僕も人と話しててあがっちゃうことはあるから」
 そう言って爽(さわ)やかに直樹は先日の件を受け流してくれた。まずは最初のハードルは越えたと聡子はホっと胸をなで下ろす。
「それじゃあ、行こうか」
 そう言って桔梗が先導する形で歩き出す。服装はやはりゴシックロリータで、その風貌は平凡な町中で異彩を放っている。しかし、その異質な服装に顔が負けてないのが桔梗だ。その存在感を放つ「美」に、むしろ平凡な町の方が負けている。
「このカフェで話をするんじゃないの?」
 直樹が疑問を口にする。
「いや、待ち合わせに使っただけだよ。お茶を飲みながら話して聞かせただけじゃ、分かりづらい事柄なんだ、君の問題はね」
「そう、だったらいいけど」
 そう答えた直樹くんに、桔梗に対する若干の敵意が感じられたように思えた。聡子がこれまで観察してきた中では見ることがなかった直樹の態度に、若干の戸惑いを覚える。
「しっかり教えてもらうことにするよ。僕の理想が実現できない理由をね」
 そう言った直樹くんの横顔を、気の利いた言葉も思いつかないまま見つめる。
 やはり、今日の直樹くんはいつもの直樹くんと違う。それが素直な聡子の感想だった。

  ◇

 打ち合わせ通り、桔梗は直樹くんを駅裏から十五分ほど歩いた位置にある、いかがわしい町に連れて行った。ありていに言えば、風俗街である。
「どこまで行くんだい? なんだか、僕の価値観ではあんまり心地よくない場所に連れてこられたようだけど?」
 午後の日が高いうちからちらほらと見える性的な魅力を強調した客引きの女性を横目に、直樹くんが呟く。
「そう気取るなよ。君ももう少し大人になればお世話になるかもしれないだろう?」
「何を馬鹿な!」
 直樹くんが語気を荒げる。どうやら、本当に侮辱と受け取ったらしい。桔梗の方も意図してそう取れるように言っているのだから当たり前だ。今日の桔梗は悪役なのだから、直樹くんの反感を買わなければ始まらないのだ。
 そろそろ、悲鳴が起こるはずだ。これから直樹くんに起こることに想いを馳せると胸が痛む。直樹くんは精神的にも、肉体的にも「痛い」目を見ることになる。その痛みを聡子が癒してあげるからこそ、直樹くんは聡子に心開くのだと桔梗は言うのだけれど……。

 風俗街を歩くこと数分、コケがびっしりとこびりついた不衛生な印象を受けるビルディングの横を通りかかった時だった。予定通りに、女性の悲鳴があがる。
 三人が振り向くと、そこには二十代後半と思われるワンピース姿の女性と、その女性の髪の毛を無造作に掴む中年の男性の姿があった。
 桔梗を除く直樹と聡子が困惑の表情を見せる。直樹は単純に突如遭遇したその暴力的な光景に戸惑い、聡子はあらかじめ予想していたものよりも暴力の度合いが激しかった点に戸惑った。
 やがて女性は髪を手加減無しに男性に引っ張られたまま、ビルとビルの間の暗がりに引きづり込まれていった。
 無論、女性も、その女性をいたぶるヤクザ風の男も、桔梗が用意したサクラである。しかし聡子は思わず、「やりすぎです」との視線を桔梗に送ってしまう。
 けれど桔梗は聡子のそんな視線を意に介さない。この程度は許容範囲だと言わんばかりの落ち着きはらった態度で腰に手をあてて成り行きを見守っている。
「桔梗!」
 思わず聡子がそう叫んでしまった時、耳元に今まで沈黙していたレンからのメッセージが入る。
「落ち着け、お嬢ちゃん。あっちも相応の金を貰ってるんだ。覚悟はできてる。もとを辿ればお嬢ちゃんの金だ。今はお嬢ちゃんの目的に集中するんだ」
「でも……」
 聡子が軽い混乱状態のまま遠くにいるレンに言葉を送ろうとした時だった。直樹が携帯を取り出し、おもむろに番号を押しはじめる。
「警察に……!」
 直樹はそう言った。
「間に合わないね」
 その直樹の携帯を持った手を握りしめ、桔梗が冷徹にそう告げる。
「のうのうと警察が到着する頃には、きっとあの女性は多大な暴力を振るわれた後だ。君は、それでいいのか? 理想主義者」
 桔梗の切り目が、直樹を射抜く。視線はあくまで冷たく、迷いが無い。
 数瞬沈黙した後、直樹は「そういうことか」と呟いた。
「君の言う通りだ。そんな事態、僕は望まない。僕がなんとかしてみせる」
 桔梗にそう言い返すと、直樹は唇をぐっとかみ締めて、女性が連れ込まれた暗がりへと向かっていった。

  ◇

 滑稽なものだった。
 「暴力はいけない」「話し合いで解決を」、そんな正論を振りかざした直樹の顔面にヤクザ風の男は鼻が折れんばかりの拳の一撃をたたき込み、その一撃で直樹は人形のように数メートルほど吹っ飛ばされた。
 それでも立ち上がらんとしたのは称賛に値すると言って良い。しかし、もう既に、膝が言うことを聞かなかった。
 まだ昼間なのに日光が差し込まないビルに挟まれた薄暗がりの中を桔梗が悠然と歩く。
「やはりこうなったね」
 地べたに座り込む直樹の横まで歩を進めると、桔梗は抑揚の無い声でそう言った。
「それが、君の限界だ」
 地べたから桔梗を見上げる直樹の表情が、聡子の位置からは見えない。だけど、直樹くんは泣いているのではないか。聡子はそう思った。
「これで終わりってことも無いだろう? サービスに、もう一、二発叩き込んでやるぜ」
 髪を刈り上げたヤクザ風の男が卑下た笑いを浮かべながら、直樹と桔梗に近付いてくる。その言葉は直樹にではなく、桔梗に向けられていたものだったが、直樹にはもうそのことを冷静に分析している余裕がないようだった。
「あいにく、そちらの判断でのサービスを私は許可しない」
 そう、桔梗の声が響いた瞬間だった。桔梗の身体が宙に舞い高速で旋回する。かろうじて、桔梗の履いているボンテージパンツが円を描き、男の後頭部に触れたのだけを聡子は知覚することができた。
 男が、そのまま膝から崩れ、前のめりに倒れ込む。空中で回し蹴りを男に叩き込んだのだと結果から把握する。もう一人のサクラである女性はその光景を見るやいなや、今度は本当の悲鳴をあげてその場から足早に立ち去ってしまう。女性がどこまで展開を知らされていたのかは知らないが、男を一撃で失神させる小柄な桔梗という図からは、純粋な恐怖が感じられたのもまた確かだろうと聡子は思う。
 何事もなかったようにボンテージパンツについた埃(ほこり)を払うような仕草を見せる桔梗に、地面に座り込んでいる直樹、そしてその二人を見守る聡子の三人だけが意識を持つ者としてその場に残る。
「どこまで彼の写真家を英雄視して追いかけても、平和だなんだとほざいても、君は決して当事者じゃない。伝達された情報に感化され、この平和な国から遠い国の『過酷』を眺めているだけの傍観者だ。君の力じゃ遠い国の飢餓どころか、目の前の女性一人助けられない。それが君の理想が実現しないと私が言った全てだ」
 傲然(ごうぜん)とでもいった態度で、桔梗は座り込む直樹にそう言い放った。
 そして、そのままそっと聡子に視線を送る。その視線は、「君の出番だ」と、そして「これで成就したな」と告げていた。
(でも、桔梗、全ての人間があなたのように強いわけじゃないわ。普通の人間が、この平和な国で、ありふれた幸せを求めて生きていくことは何も悪いことじゃないわ。桔梗は傍観者だなんて言うけれど、誰も彼も遠い国の『過酷』の当事者になれるわけじゃない。だからこの国で、自分でできる範囲で理想を追い求めていくことは価値がないことなんかじゃない。目の前の普通の幸せを守ることも立派な理想だわ。だから、そんなに直樹くんを責めないで)
 それが、この場で聡子が直樹にかけるべき、桔梗から与えられた模範解答だった。
 だけど何故だろう、その言葉を口にしようと心で確認した時、母の顔が、兄の顔が、義姉の顔が聡子の脳裏に過ぎった。
 どうしてこの状況でそんな映像を思い出したのか分からない。だけど、聡子はその映像を首を横に振ってうち消すと、こんなことを口にしていた。
「そうです。直樹くんは甘いです。今のままじゃ、いつまでたっても理想なんて実現しないです」
 直樹くんと呼びかけたのに、その言葉が直樹に向けたものだったのか、自分に向けたものだったのか聡子にはよく分からなくなっていた。
「お嬢ちゃん!?」
 耳元には、レンの驚きの声がこだましている。
「おい!」
 桔梗も予定とは違う聡子の言動に、歩み寄って何か言おうとする。
 しかし、そんな桔梗の足を、未だ地面に座り込んだままだった直樹が掴む。直樹はまだ目にうっすらと涙を浮かべていたが、それでもゆっくりと立ち上がった。
「確かに、君達の言う通りだ。僕が、甘かった。桔梗さん、負けたよ。君は、僕より全然強いんだもんな……」
 右手で涙を拭って、そう告げる。
 はじめて、直樹が桔梗の名前を呼んだ。その光景に胸が掻きむしられる。そう、桔梗は、ずっとずっと、聡子よりも強くて美しいのだ。
「予定外だ」
 桔梗が、いつもと変わらない平静な声で語り出した。
「どうやら島田直樹は柊聡子のことよりも私のことを評価する事態になってしまったようだ。この事態を覆して君の願いを成就させるのは非常に難しいと私は判断する」
 「君」という呼びかけは聡子に対して向けられている。桔梗は、直樹を目の前にして直樹には伏せておかねばならない聡子の案件の話を始めている。その真意を掴みかねる。
「普段ならここでミッション失敗として返金保証という運びになるのだが、如何せん今回の件は私に落ち度がある。ターゲットのこと、クライアントのこと、私は双方の人物の把握が不十分だったようだ。私のミスで君の恋愛の可能性を摘んでしまうのは私の流儀に反する。だから、今回は破格のアフターケアだ。一千万コースをここで提供するよ」
 桔梗はそんな事を言うと、何やら一言呪文のような言葉を口にして、直樹と向かい合った。
 桔梗の瞳と直樹の瞳が正面から正対する。直樹が左に視線を送ると、それを鏡に映したように桔梗の視線も後を追う。その一連の過程を経て、徐々に二人を取り囲む空間がそれまでと異質なものに変質していくのが聡子にも感じられる。
「島田直樹に強制催眠をかける。柊聡子を愛せとね」
 直樹が右手をあげると、それに合わせて桔梗も左手をあげる。桔梗は、直樹の鏡になる。
「私のラポールは強力だ。もう数秒で済むから、君はそこで待っていたまえ」
――催眠恋愛。
 その言葉が頭に過ぎり、桔梗がしようとしていることが何なのか聡子が知覚した瞬間だった。ワケも分からないまま、聡子は駆けだしていた。
 両手を広げて、直樹を庇うように桔梗の前に立ちはだかる。
「やめて!」
 そう、あらん限りの力を振り絞って叫ぶ。
 爆ぜた空間に飲み込まれたかのような身体感覚と、睡眠に落ちる前の微睡(まどろ)みのような意識感覚。様々な感覚が一度に襲ってきて、やがて聡子の存在をかき消していく。
 桔梗の美しい瞳の奥に続いていく、どこまでも深い漆黒だけが聡子を形成するイメージとして残留する。
――綺麗。
 おぼろげな存在感覚でそう呟いた瞬間、意識が明滅する。
「お嬢ちゃん!」
 最後に、そう叫ぶレンの声が聞こえた気がした。

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