もっと知ってほしい,盲導犬のこと(1)
クリックするとその項目にジャンプします。
1.パピーウォーキングシステムについて
2.パピーウォーカーになるまで
3.盲導犬の条件
4.How to しつけ(1)〜シーシー,ベンベン
5.How to しつけ(2)〜お犬様にしない
以下は,別ページとなります。
6.How to しつけ(3)〜犬語で伝える
7.How to しつけ(4)〜Yes トレーニング
8.How to しつけ(5)〜散歩
盲導犬は,一生をボランティアの手で過ごします。まず,繁殖犬ウォーカーと呼ばれる父犬や母犬を飼育している家庭で生まれます。約45日前後そこで育てられ,乳離れの後,パピーウォーカーと呼ばれる一般家庭で1年前後育てられます。(パピーとは子犬という意味です。)一般家庭にいる間に,子犬は家庭生活や人間社会に慣れ,人間大好きになっていきます。「スワレ」や「マテ」などの基本的なしつけもこの時期に行われます。
パピーウォーカーのもとを離れると,盲導犬協会で本格的な訓練に入ります。(この辺のことは,盲導犬協会のHPへどうぞ!)
盲導犬として活躍した後は,老犬ウォーカーと呼ばれる方たちのところで静かに余生を送ります。北海道の場合は,協会の中にある老犬ホームで,リタイヤした仲間とゆったりした時間を過ごす子が多いのです。
ボランティアの方たちを「ウォーカー」と呼ぶのは,「一緒に歩く人」という意味からです。我が家では,子犬と一緒に歩くことを選んだのです。
パピーウォーカーのことを知ったのは,実は偶然でした。私が所属している北海道生活科教育連盟の生みの親である志田恭司先生(元札幌市立中央小学校長)が北海道盲導犬協会の副会長をなさっていたのです。毎年正月に実施される生活科連盟の宿泊学習でそのことを知った私は,その場で3学期に学校に盲導犬を招いて授業をすることに決めました。
その後,盲導犬の育成のシステムを知り,すぐに家族会議を開き,パピーウォーカーに登録することにしました。繁殖犬は,かなりのベテランでなくては,お産やたくさんの乳飲み子の世話が難しそうですし,老犬は小さな子供のいる家庭では犬の方が疲れてしまうかもしれないと聞いたからです。その点,パピーなら1匹ですし,小さな子がいる方が望ましいとも聞きました。ただ,1年後の別れがどんなにつらいか,今考えても胸が痛むほどです。
登録してからパピーが来るまで,我が家の場合は1年以上待ちました。その間,事前に開かれる講習に参加して,少しずつ研修をしていくことになります。おしっこのときは「シーシー」と声をかけること,うんちのときは「ベンベン」,噛みついたら「ノー」と叱ること,「お手」などは目の不自由な方にとっては危険なので教えないこと,…。たくさん覚えることがあります。
パピーは,父犬と母犬の組み合わせで,同じ頭文字の名前を付けます。フレンドのお父さんは「ゆうき」号,お母さんは「スー」号で,その親から生まれた5頭の子犬には,Fで始まる名前をパピーウォーカーが考えて付けます。我が家では,オスなら「フレンド」,メスなら「フローラ」と候補を考えていました。他のパピーウォーカーと重なっては困るので,あらかじめ葉書で盲導犬協会に知らせておきます。
(なお,繁殖犬スーを育てていらっしゃるのは,北広島市に在住の河合さんです。河合さんには,委託後もメールでいろいろと相談に乗っていただいたり,フレンドの様子を見に来ていただいたりしています。)
6月27日,「委託式」といい,いよいよパピーを家に迎える日がやってきました。名前は,希望通りでした。
母犬のスーから離れ,妻の膝に乗ったフレンドは首にオレンジのリボンをしていました。繁殖犬ウォーカーのところでは,名前を付けずにリボンの色で区別しているのです。フレンドは,妻の膝でキュンキュンと鳴きました。この日から,フレンドと私たちの新しい生活が始まったのです。パピーは,将来に備えて家の中で飼います。その毎日の様子は,下の日記をご覧ください。
日記は,表計算ソフトでつけました。6,7月は項目を区切って毎日の変化が見やすいように工夫しました。8月からは,天気以外は大きく「メモ」として記録しています。(ですから,毎月更新します。)
なお,99年9月に,このHPに京都の中学生の女の子からかわいいメールをいただきましたので,それと私の返事を紹介をさせていただきます。(名前は,イニシャルに変えてあります。)
はじめまして、T.T(中1)です 私は、とても犬が好きです。でも小児喘息で動物を飼うことが出来ませんでした。今は、すっかり直ったようで、毎日元気に中学生活しています。 テレビでパピーウォーカーの事を知りました。その、一年間子犬を育てて、盲導犬にする仕事を、お父さんに話して、パソコンで調べてもらいました。今すぐでなくても、出来たらパピーウォーカーになりたいと思っています。 どうしたら、パピーウォーカーになれるのか教えて下さい。 |
Tさん,こんにちは。 フレンドの父さんのヨコさんです。 ホームページに来ていただき,ありがとうございました。 フレンドのページは,来週くらいまでにまた更新します。 というのは,昨日,第2回目の予防接種と飼育講習だったので,その報告を載せたいと考えているからです。 どうぞ,お楽しみに。 さて,パピーウォーカーになるための方法ですが,北海道の場合は,まず盲導犬協会に電話するところから始まります。 希望者が多いので,しばらく待っていますと,「そろそろ順番が回って来そうですが,今も引き受けることが可能ですか?」と,電話が来ました。 「可能です!」と言いますと,「事前講習会」の案内が送られています。 その講習に参加して,パピーウォーカーの大変さを十分知った上で,正式に受付がされ,順番が回っていたところで委託式の日を迎えるというわけです。 京都の場合も,ほとんど同じだと思いますが,近くの関西盲導犬協会あたりに問い合わせてみてはいかがでしょう。 財団法人 関西盲導犬協会 事務局/〒616 京都市右京区常盤段ノ上2-6 TEL.075-881-4618 FAX.075-881-1224 訓練センター/〒621 京都府亀岡市曽我部町犬飼未ヶ谷18-2 TEL.0771-24-0323 FAX.0771-25-1054 また,パピーウォーカーをやっての感想については,よければ我が家の娘あてにメールをいただければ,同じくらいの年の娘が返事を出すでしょう。よかったら,どうぞ。(この後,Tさんと娘との間に,メールのやりとりが始まりました。このホームページを通じての新たな出会いです。うれしいです。) |
3.盲導犬の条件
盲導犬になるには,いろいろな条件を備えていなくてはなりません。盲導犬協会でお聞きした話ですが,頭がよすぎて不適格になった犬もいるといいます。その犬は,例えばユーザー(盲導犬を使う目の不自由な方)が手押し信号の場所に誘導する命令を出したとき,誘導するだけでなく,ユーザーが手押しのボタンを押したいということを察知して,自分で伸び上がってボタンを押そうとしたのだそうです。これは,やりすぎです。盲導犬は,ユーザーの目となるための存在ですが,ユーザーの命令以上のことを勝手に判断して行動してはいけないのです。
もちろん,命令をきちんと理解できなくてはいけないのは当然のことですね。いくらよい性格でも,理解するのに時間がかかりすぎてはユーザーが思うように動けません。適度な頭のよさが必要なのです。この頭のよさは,ほとんどが生まれつきによるといいます。
そこで,北海道盲導犬協会では,ゴールデンリトリバーとラブラドールリトリバーをかけ合わせて,繁殖することを試みています。実は,フレンドとその兄弟たちもこのかけ合わせの子たちなのです。
なぜかけ合わせるのでしょうか。それは,ゴールデンはどちらかというとおっとりした性格,悪くいうと反応が鈍いのに対し,ラブラドールは仕事好き,悪くいうとせわしないという違いがあるからなのだそうです。目が不自由な方にとって,おっとりしすぎ,あるいはせかせかとせわしない犬では困ります。特に,お年を召された方には,せわしない犬,元気のよすぎる犬と一緒に暮らすのはかなりしんどいことなのだそうです。
そこで,ゴールデンとラブラドール,それぞれのいいとこ取り,つまりおっとりしていながら,仕事好きという性格を引き出そうというわけです。盲導犬協会で繁殖している犬がすべてこのかけ合わせではありませんが,今のところこの試みはうまくいっているようです。
他に,盲導犬には「スワレ」「フセ」「マテ」などのしつけをするようにしていますが,「お手」や「チンチン」など,他の飼い犬がよくする芸は教えません。実際に,目の不自由な方との生活の中では,意味のないことだからです。例えば,目の不自由な方が犬の前に手を差し出したとき,犬が「お手」をすると大変危険です。目の不自由な方にとっては,いきなり自分の手をかなり重量のある犬の脚でたたかれることになるからです。
また,すべてのパピーは,シーズン(発情期)を迎えると,避妊手術をします。避妊手術によって,中性化し,性格も行動もおだやかになるためです。特に発情期の衝動的な行動は,目の不自由な方を誘導する際の障害になる可能性が高いからです。
このように,盲導犬にはいろいろな条件があります。これを知ったある子は「盲導犬ってかわいそうだ。」と言いました。あなたは,どうお考えでしょうか?(よろしければ,盲導犬の授業の記録をご覧ください。)
盲導犬は,ユーザーがハーネスをつけようとすると,背が2,3cm高くなるといいます。張り切って,大好きな仕事に向かうのです。年をとり,リタイヤする犬は,ユーザーの家で新しい盲導犬と一緒に飼うことはできないそうです。なぜかというと,新しい盲導犬が自分のご主人と仕事をするのを見ることに耐えられないのだそうです。仕事は,盲導犬の生き甲斐なのですね。
人間の基準から見ると,ちょっとかわいそうに感じる条件がたくさんありますが,少なくとも仕事をしているときの盲導犬は幸せなのだろうと思います。
飼い始めて,最初に当面するのは,子犬におしっこ(北海道盲導犬協会では「シーシー」と呼びます)とうんち(同じく「ベンベン」です)を外でするようにしつけることです。6,7月の飼育日記をご覧いただけばお分かりになると思いますが,飼い始めの子犬は家の中のあちこちで粗相をします。これが,クセになると大変です。おしっこやうんちの匂いが特定の場所につくと,次回からはそこにするようになります。
将来に備えて,シーシーやベンベンは必ず,外でさせるようにします。目の不自由な方は,室内のあちこちに用便をされると大変です。
実は,我が家ではここを最初のうち失敗していました。どのように失敗していたかと言いますと,まず一応,外に連れていきます。そして,おしっこを促すように「シーシー」と声をかけます。しかし,フレンドは珍しい外の風景や物音に興味津々で一向に用を足そうとはせず,あちこちの匂いをかいだり,きままに動き回るばかりです。仕方なく室内に戻すと,入ったとたんジャー。また,室内で用便のポーズを見せ,外に連れ出すのが間に合わない場合用に,窓際にペットシーツを置いておいたところ,そこにシーシーをするものだと思ったようで,困ったこともあります。
そんなとき,盲導犬協会の長崎先生から「調子はどうですか?」とお電話がありました。上の様子を話しますと,「どれくらい外に出していますか?」とのこと。3〜5分程度で引き上げている旨を話しますと,「10分くらい,リード(引き綱)を短く持って待ってみてください。」とアドバイスをいただきました。そのようにやってみると,フレンドは,やっと外でジャー。子犬に用便を促すには,行動半径を狭くしてもうひと粘りが必要だったのです。
さらに,用を足しているそのときに「シーシー,シーシー」と声をかけて条件付けをすることと,用を足し終わったら「シーシー出たね。偉いねえ。よかったねえ。」とうんとほめてやることも大事なポイントです。
室内で失敗してしまったら,生後60日くらいまでは,やはりそのときに「シーシー」とか「ベンベン」とか声をかけて自分の行為を人間は何と呼ぶかを覚えさせます。しかし,外のときのようにうんとほめては,「どっちでもいいんだ」と思ってしまいますので,事後のほめ言葉は,なしにします。しかし,失敗を叱ってはいじけて人間不信になってしまうそうです。
60日を過ぎたら,徐々に人間の不快感を伝えるようにします。長崎先生によれば,「ブツブツ言ってください。」とのことです。例えば,「あ〜あ,こんなところにしちゃって,まったくもう。」とか「困ったねえ,いつになったら覚えるのかな,この子は。」などととても不快な声と表情で,ブツブツ言いながら片づけをするのです。「もし,言う言葉が見つからないときはいやな声で『ブツブツブツ』と言っていただいてもよろしいです。」という説明には笑ってしまいました。
便意をもよおした犬は,そわそわし,腰をかがめるような格好をします。また,ベンベンのときは肛門の周りが赤くはれぼったい感じになってきます。そうした様子を観察し,早いタイミングで外に出してやること,そして待ってやること,ほめてやること。人間の教育と同じく,大事なポイントですね。
「お犬様にしないでください。」これは,盲導犬協会の長崎先生が,講習の中でくり返し強調されることです。犬は,もともと群れを作って共同生活を営む習性をもっています。ですから,人間が犬に対して下手(したて)に出ると,犬は人間との関係を「自分が上」と認識し,その集団のリーダーになろうとし,どんどん大きな態度をとるようになります。反対に,人間がきちんとリーダーシップをとると,犬はそのリーダーに従おうとすることで安定していくのです。
長崎先生はおっしゃいます。
「パピーウォーカーのみなさんは,あまり盲導犬を育てると考えず,人間とうまく仲良く,楽しく暮らせる犬を育てるのだということを考えてください。盲導犬の資質は,ほとんど生まれつきで決まっています。もし,盲導犬になれなくても,人間と楽しく過ごせる犬なら,その犬は幸せだと思うのです。そのためには,犬とは民主的につき合ってはいけません。人間中心の生活に,犬を慣れさせてください。」
人間中心でない生活(下手に出る)とは,例えば次のようなことです。
・食事の際に人間より犬を優先させて与える。 ・外に出るとき,人間より先に外に出す。 ・散歩の時,犬に引っぱらせる。 ・ソファや車のシートに上ることを許す。 ・ねだられたら,食べ物を与える。 ・人間の食べているものを,分け与える。 ・外出するときに,「バイバイ」などと声をかける。 ・帰宅時に「よ〜し,よしよし」などと声をかける。 ・声をうわずらせて「かわいい〜!」などと声をかける。 ・犬が寝ころんでいてじゃまなとき,人間が犬をよけて歩く。 ・飛びかかったり,かじったりしたときに「やめて!」などと言う。 |
このような接し方をしていると,犬は「自分が人間より上」と認識し,やがてわがままな「お犬様」になってしまいます。
我が家の例で言いますと,次のようなことがありました。
・フレンドは,居間にあるソファに上がりたがりました。目を離すと,乗っているのです。それに気付いたら,私たちはフレンドをソファから有無を言わさず押して落とします。
・私たちの食事時,フレンドは伸び上がって食卓テーブルに前脚をのせてテーブルの上のものの匂いを嗅ごうとします。そのときも,押し戻します。
・散歩に出ると,自分が先頭になりリード(引き綱)がピンと張られた状態で歩こうとします。そのときは,強くグンとリードを引き寄せ,ショックを与えます。何度かくり返すと,主人の動きに合わせて,リードが軽くたわんだ状態での散歩が可能になります。
・飛びかかりやかじりには,口を押さえ,首根っこをつかまえて動けなくします。
また,例えば食事の際,人間が手を出すとうなる犬がいますが,それも「お犬様」の意識の表れだということです。これは,早いうちからエサを与える場合,容器を両手で押さえて与えるようにすることで,犬に慣れさせます。
おもちゃも,いつでも犬が使えるようにするのではなく,人間がそのときに与えるようにします。
タオルなどを使って引っぱり合いを楽しむ場合も,最後は必ず人間が勝って終わるようにします。
こんな,人間中心のしつけによってフレンドは,いろいろな人に「お利口さんね〜。」と言われるようになりつつあります。(でも,帰宅すると「フレンド〜」とうわずった声をかけ,ついついトレーニングと称して犬用のジャーキーやビスケットを与えたがる人が約1名います。困ったものです。〜本人談)