もっと知ってほしい,盲導犬のこと(2)

 目次 クリックするとその項目にジャンプします。
6.How to しつけ(3)〜犬語で伝える
7.How to しつけ(4)〜YESトレーニング
8.How to しつけ(5)〜散歩
9.盲導犬の一生


6.How to しつけ(3)〜犬語で伝える


 例えば,ソファに犬をのせないと方針を決めます。(我が家では,のせないことにしました。他に,階段は上らせない。台所には入れないなど,その家々に合った方針を決め,家族みんながそれを徹底させることが必要です。)
 でも,犬は人間がソファに座っていると自分も同じようにソファにのろうとします。その際,「あらあ,だめでしょ!」などと,人間の言葉をかけるのは,よくないそうです。
 前にも書きましたが,犬は本来群れで暮らす生き物なので,いつも人間との順位づけをしようとします。ソファにのるのも,その表れのひとつです。このような順位づけに結びつく行動に対して,人間の言葉でしつけるのは難しいばかりでなく,言葉をかけられている間に,反発心が強くなって,かえって逆効果なのだそうです。
 では,どうするか。それは,上の食事時のしつけでも紹介しましたように,言葉でなく黙ってソファから落とすのです。長崎先生は,これを「犬語で伝える」とおっしゃいます。
 これは,体罰とは違います。してはいけないことを,体を通して教えるのです。憎しみを込めてするのではありません。
 ですから,ソファから落とすとき,テーブルにのせた前脚を払い落とすとき,リードを引き戻すとき,私たちはできるだけ目線を合わさず,「はい,だめだめ。」といった感じで,できるだけ自然に,しかし絶対許さないという姿勢で接します。

 また,これはいけないことをした時ばかりでなく,いいことをした時や遊ぶ時にも大切なことです。つまり,言葉で「よし,よし。」と静かに言うよりも,大きく手を広げたり,拍手をしたりして,顔もにこにことして「よ〜し,よし,よし!」と大きな声をかけてやるようにしなければ,犬には飼い主の喜びは伝わりません。
 講習の際,長崎先生は犬たちに対して,本当に生き生きと心からの喜びを表現してくれます。これまで,数回しか会っていない犬たちが,長崎先生と接すると,生き生きと思い通りに動くのは,長崎先生が「犬語」を身につけているからだと,いつも感動させられます。
  
 私は,教師ですから「自分は,子供語をどれだけ解しているか,どれだけ生き生きと子どもたちに自分の思いや喜びを伝えているか」と,反省させられます。


7.How to しつけ(4)〜YES トレーニング

 パピーウォーカーは,基本的なしつけを効果的に行うため,YESトレーニングと呼ばれる方法を使います。これは,人間の要求に素早く従うことができたら,「イエス」と言いながら,ジャーキー等の小さなエサを与えるものです。心理学で言う,オペラント条件付けなのですが,「よし」ではなく,「イエス」であるところがポイントです。盲導犬の仕事中には,いろいろな人が盲導犬に近づいてきます。ユーザーが気づかないうちに,中には盲導犬にエサを与えようとする人もいるかもしれません。そのエサを盲導犬が無自覚に食べるようなことがあっては,仕事ができません。
 そこで,食べてもいい時と,ダメな時を,小さいうちから分からせておく必要があります。そこで,しつけと同時に,食べてもいい時を教えるため,「イエス」を合図にご褒美のエサを与えます。一般の人で,犬にエサを与えるときに「イエス」と言って与える人はまずいないからです。(当然,外国では「イエス」では意味がありません。)
 例えば,犬がエサを持った飼い主に飛びかかろうとします。飼い主は,こうした場合,決してエサをやってはいけません。無視します。犬は,自分で考えます。どうしたら,エサがもらえるかな?そのうち,座ってじっと飼い主の方を注目したとき,「イエス」という言葉と共にエサを与えるのです。これにより,犬は自分がどういう行動をとることがよいのかを判断すると共に,飼い主とのラポートを強くするのです。
 反対に,望ましくない行動には「ノー」で対します。「だめよ!」「これこれ」なども併用し,行動の程度に応じて声をかけますが,ここ一番は「ノー!」です。短く,断固として否定することが大切なのだそうです。
 「イエス」は3音,「ノー」は1音。たくさんほめて,短く叱る。こんな一言にも教育の原理が生きているようです。


8.How to しつけ(5)〜散歩

 散歩は,犬にとってとても大事なことです。散歩は,犬の生活リズムを作り,体力をつけます。狭い室内から解放されることでストレスを解消し,いろいろな人や自然との触れ合いによって社会性を高めもします。散歩には,いくつかのポイントがあります。
1.散歩に出かける前は,シーシー,ベンベンをさせること。(それでもベンベン袋とティッシュペーパーは必需品ですが。)
2.玄関を出るときは,人間が先に出ること。(人間の散歩に犬を連れていってやるのだ,という態度を示します。)
3.階段では,立ち止まらせること。
4.リードを張った状態では歩かないこと。つまり,人間と犬の引っ張り合いを許さないこと。リードがゆるんで,犬が人間の動きに合わせて動くようにすること。
5.匂いとり(他の犬の匂いを嗅ぎ回ること)や,ゴミあさりなどは許さないこと。
6.吠えさせないこと。
7.人間も喜びを表現して,楽しんで散歩すること。
8.帰宅したら,しっかりと脚を拭くこと。

 これらのほとんどは,リードを通して犬にメッセージとして伝えられます。例えば,散歩に出かけるとなると,犬はうれしくて飛び跳ねます。そして,ドアを開けると一目散に出ようとします。それを予測して,リードを短く持ち,「ノー!」と言いながらリードをグンと引き戻します。犬は,瞬間的に前脚を浮かせてしまいます。そして,ハッと主人の方を見やります。その時,人間がまず外に出て,それから犬に向かって「おいで」なり「来い」なりと声をかけるのです。
 リードは,いつもたわんだ状態で歩くように心がけます。はじめのうちはどうしても犬は先走ってリードがピンと張った状態になりがちですが,このときもリードをグンと引き戻すことで,主人の存在を意識させます。そして,主人の動きに合わせて動くようになったら,「よ〜し,よしよし。上手だねえ!」などと,うんとほめてやります。(リードのたわみは,「アルバム(10月)」の写真をご覧ください。)
 また,人間の動きに合わせると楽しいということを感じさせるように,人間もにこにこと快活に散歩しなくてはなりません。鼻歌を歌ったり,「よ〜し,ちょっと走ろうか! それ!」などと走ったり,「ほら,フレンド見てごらん。木の葉がすっかりきれいになったねえ。」などと話しかけたりもします。
 
 2回目の予防接種(生後4ヶ月くらい)が終わると,草むらに入れることも可能です。ボールなどを持っていって,うんと楽しく運動させてやりたいものです。
 なお,北海道の場合は,雪の中での散歩がとても大切な経験になります。雪道を安全に歩行することは,北国の盲導犬に求められる大きな能力なのです。


9.盲導犬の一生

 前に,盲導犬候補生は繁殖犬ウォーカーのもとで生後45日程度まで暮らすことを書きました。その後は,我が家のようなパピーウォーカーを経て,目の不自由なユーザーと生活するようになります。 
 個体差がありますが,平均12年程度働きます。「ドッグイヤー」という言葉をご存じでしょうか?犬は,人間のおよそ7倍のスピードで年を取るということです。実際は時期によって12倍だったり4倍だったりしますが,人間より速いことは間違いありません。
 およそ,次のような成長スピードとなっています。

犬と人間の成長比較
人間 人間 人間 人間
1か月  1才  2年 23才  8年 48才 14年 72才
2か月  3才  3年 28才  9年 52才 15年 76才
3か月  5才  4年 32才 10年 56才 16年 80才
6か月  9才  5年 36才 11年 60才 17年 84才
9か月 13才  6年 40才 12年 64才 18年 88才
1年 17才  7年 44才 13年 68才 19年 92才
老犬ホームにて


 人間の目として働く盲導犬は,普段家の中で過ごしていますし,仕事をすることが大好きで,仕事に張り合いを持っているため,外で飼われる一般の犬よりは,長生きの傾向にあるそうです。しかし,やはり13才くらい(人間でいうと70才近く)になると,目や内臓の病気にかかる犬が多くなり,リタイヤということになるそうです。目の病気で一番多いのが緑内障,内臓の病気ではガンが多いのだそうです。
 リタイヤした犬は,老犬ウォーカーと呼ばれるボランティアの手で穏やかな余生を送ることになります。北海道の場合は,また盲導犬協会で引き取り,「老犬ホーム」と呼ばれる施設で仲間と共に過ごす犬もいます。老犬ホームは,北海道独自の施設で,訓練犬の犬舎に隣接しています。(左の写真は,99年の盲導犬祭りに参加した優とお友達です。)犬同士は,テレパシーのようなコミュニケーションが可能だといいますから,これから巣立つ訓練犬に,老犬たちが盲導犬の心得などを伝えているのかもしれませんね。
 北海道盲導犬協会で,年に1度開催される盲導犬祭りのとき,一番にぎわうのがこの老犬ホームです。人間大好きの犬たちは,外でたくさんの人達に声をかけられ,なでられてうれしそうです。
 老犬ホーム,老犬ウォーカーの元で過ごし,いよいよ動けなくなってくると,協会の職員がいつもいる部屋で,布団の上に身を横たえています。職員がまめに体位交換をしたり,流動食を与えたりして親身に世話を見ます。寿命を全うすると,協会の敷地内にある墓地「霊犬安眠」に手厚く葬られます。
 こうして,最期の様子を書くことは辛いのですが,盲導犬が最期まで人間の温かい気持ちで生きていることを分かってほしいと思い,紹介しました。

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