「うずのしゅげ通信」
2018年7月号
【近つ飛鳥博物館、河南町、太子町百景】
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2018.7.1
「ぼくたちに赤紙が来た」上演
この記事は、「うずのしゅげ通信」2005.12.1号に掲載したものです。
「今年の文化祭で上演した「ぼくたちに赤紙が来た」をホームページに載せました。
私が勤務する学校が創立30周年をむかえたということもあって、
その時代に行って先輩に自分が抱えている悩みについて意見を聞くという筋を考えたのです。
生徒たちから「菊次郎とさき」とか、蛇踊りをやりたいという希望があったのでそれも
採用することにしました。
しかし、先月号の「うずのしゅげ通信」にも書きましたが、
まずは、時間を遡るということのリアリティーをどういうふうに確保するか
というむずかしさがあります。小説やドラマ、劇などでタイムマシーンを登場させたものは、
だいたいにおいてリアリティーに欠けているように思うのです。
上演するときのわかりやすさということもあります。むずかしい理屈では、
観客を納得させることはできません。
それで、タイムトンネルを採用することにしました。タイムマシーンよりも
タイムトンネルの方が単純なだけわかりやすいはずです。
しかし、タイムトンネルの存在は、むかしばなしの例にならってあるものはあると
強行に仮定するとして、
では、どうしてタイムトンネルの現在の入口を発見するか、
そこで、昔にいるざしきジィジィから送られてくるカメが出てくる出口、それが
タイムトンネルの入口であるという
仕掛けを考えました。
そこで、生徒から希望が出ていた蛇踊りの案が浮かび上がってきました。
どういう脈絡かは分からないのですが、蛇踊りをしたいという希望もあったのです。そうなると
生徒たちを乗せて時間のトンネルを通っていく乗り物として、
猫バスならぬ蛇バスというものを考えざるをえなくなってきます。そして、つてをたよって、
蛇踊りの胴体も、どこかの神社から払い下げられた練習用のものを借りることができて、
迫力を添えることができたのです(一緒に借りてきた頭は養護学校で作ったものらしいです)。
昔に行くからには、戦争の時代に戻りたいものです。しかし、生徒たちはもちろん、
生徒の親もまた戦争をしらない世代です。いまや、戦争を演じることの困難は
言うまでもありません。それで、戦争の時代は、あっさりと通り過ぎることにしました。
ということで、劇のテーマとしては、戦争の時代に触れて平和の意味を考えるということと、
もう一つ、時間を遡るというそもそもの発想をもたらした生徒の悩み、
その悩みに関連した障害の受容ということに落ち着きました。
しかし、この受容というのは養護学校で勤めてきた経験から言っても、
なかなか一筋縄ではいかないむずかしいテーマなのです。
二場の教室の場面でタイムマシーンの話題が出て、そこでたけしがつぎのように自分の悩みを
賢治先生に打ち明けます。
たけし ぼくは、むかしの生徒に聞いてみたいことがあります。
賢治先生 どんなことを聞きたいのかな。
たけし ぼくはよくわからないんです。この学校に入学してもう一年もたつのに、
まだそれでよかったのかどうか決められないんです。
賢治先生 まだ、悩んでいるのかい。
たけし 自分でもよくわからないんです。
……だから、30年前の先輩に聞いてみたいんです。「この学校に入学してよかったですか?」、
「そんなことで悩んだことはないですか?」って、タイムマシーンで行って聞いてみたいんです。
そんな悩みを抱えたたけしは学校が創設された頃の生徒たちに会って、自分の悩みをぶつけてみます。
最後にたけしは、現代にもどってきて、つぎのような確信にいたります。
たけし この学校に入ってよかったかどうかはわからないけれど、友だちもできたし、
楽しい思い出もあるし、卒業してから後悔しないようにがんばっていこうと思ってるんだ。
そんな結論でいいのかどうかは、私にもわかりません。生徒たちは自分自身で悩んだり考えて、
克服していくしかない問題だと思います。
劇の反省会で生徒たちと、このテーマについて話し合いをしました。
やはり養護学校に入学するに当たっては、生徒たちも悩んだようです。四十人ばかりの内、
二十七、八人もが悩んだと挙手して、私を驚かせました。もちろん悩みの内実はいろいろあるに
ちがいありません。中学生がどこの高校に進学しようかと悩む、
それと似通った進路の悩みもあったでしょうが、
また、個々によっては障害受容といったむずかしい問題を孕んだ、単なる進学の悩みとは違った、
深い悩みや苦しみもあったにちがいないのです。それは子どもだけではなく当然のことに親もまた
悩んでいて、生徒たちからはそういった家族の内輪話も出ていました。
対応によっては持て余すほど危ない発言も当然のように飛び出してきたのです。
しかし今回は、そういったことにはあまり拘らないで、
受け流すようにして話し合いを進めたのでした。
また、残念なことは、入学してもう一年半もたっているのに、
入学したことを後悔しているという生徒が数人もいたことです。
しかし、それは、入学するにあたっての悩み迷いがいまだに持続していると
受け止めたいと思います。
障害受容ということに関しては、私のスタンスとしては、突き放すようですが、
本人が、苦しくても、なんとかしてちょっとずつでも受け入れていくしかないと思っています。
本人が納得するしかない問題だからです。周りのものができることは、
彼の歩みをねばり強く見守り、場合によっては何らかの援助をするといった
ことくらいしかないのではないでしょうか。」
2018.7.1
フェイスブック
〈6月16日にフェイスブックに投稿したものです。〉
「 今日の拙句です。
妻と来て今宵予感の初蛍
おもむろに老いは来たれり宵蛍
安東次男に「飮食に性顕はるる大暑かな」の句あり
枇杷を啜るや種噛みて性(しやう)顕はるる
竹落葉に足滑らせて蝦夷塚
神獣鏡のジグソウパズル梅雨晴間
今日散歩ついでに近つ飛鳥博物館の春季企画展「渡来人と群集墳−一須賀古墳群を考える−」
を見てきました。学芸員による展示解説があって、それに参加させてもらいました。
一須賀古墳群は地元のこともあって、興味深い話を聞くことができました。
四句目、近つ飛鳥博物館までの尾根道に蝦夷塚と呼ばれている古墳があります。
五句目、常設展示の傍らに三角縁神獣鏡のジグソウパズル。
ということで、今日は蛍の句。
蛍火や疾風(はやて)のごとき母の脈 石田波郷
波郷の哀切きわまりない句。」
〈6月30日にフェイスブックに投稿したものです。〉
「 今日の拙句です。
(MRI検査を受く)
縛されて掘削音に耐へて夏至
ナイターやノアの方舟人で溢れ
かたつむりその残生の軽きこと
雨は乱打四葩は和音奏づるか
梅雨旱蜂に刺されし腫れ痒き
句帳から六月の句を拾ってみました。
一句目、先日受けたMRI検査。
五句目、数日前裏庭で蜂に刺されました。眼の前を飛んだ蜂を手で追い払っただけなのに、執念深く追いかけてきて腕を刺したのです。これまでに何回も刺されていて、腫れが手の指から腕の付け根にまで及んだことがあります。今回はどうしてなのかわかりませんが、そんなにひどくなく治まってくれそうです。
ということで、今日は夏至の句。
夏至の日の用持たざるも杖持ちて 村越化石
この句、何かおかしみがあって好きなのです。散歩の途中で立ち止まり、杖をまっすぐ立てて、その短い影をまじまじと見下ろしておられる作者が目に浮かびます。「そういえば今日は夏至か」というこころのつぶやきまで聞こえてきそうです。」
2018.7.1
俳句
〈6月のフェイスブックに投稿した拙句です。〉
(救世観音 二句)
夏痩せや救世観音を格子越し
大いなる救世観音の夏埃
夏痩せや膝打つ父の癖継いで
死ぬ時が死ぬる時節か松落葉
術後の目卯の花腐し聞くばかり
老いの夢かの世に繋ぐ三尺寝
(叡福寺の聖徳太子御廟)
御廟寺の塔は二層や夏燕
卯の花腐し御廟の香(かう)も地を這へり
籐椅子や膝を掌で打つ父の癖
三代で植田の隅を手植ゑけり
さりげなく補聴器見する青葉騒
兵式飯盒次々噴けり父の日に
香煙の尽くるまでゐて五月晴
足持ちてややの尻ふく走り梅雨
手水鉢百足逃がせし悔ひ残る
妻と来て今宵予感の初蛍
おもむろに老いは来たれり宵蛍
安東次男に「飮食に性顕はるる大暑かな」の句あり
枇杷を啜るや種噛みて性(しやう)顕はるる
竹落葉に足滑らせて蝦夷塚
神獣鏡のジグソウパズル梅雨晴間
山百合や古山椒の枯れし跡
小面の記事に包(くる)みて百合たまふ
(以前、近つ飛鳥博物館にて)
古鏡展に卯の花腐し雨漏りす
上目遣ひも邪鬼にかひなき走り梅雨
夏蜜柑剥きて香りの虹立つる
(MRI検査を受く)
縛されて掘削音に耐へて夏至
ナイターやノアの方舟人で溢れ
かたつむりその残生の軽きこと
雨は乱打四葩は和音奏づるか
梅雨旱蜂に刺されし腫れ痒き
「うずのしゅげ通信」バックナンバー
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