「うずのしゅげ通信」

 2019年8月号
【近つ飛鳥博物館、河南町、太子町百景】
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落語「ちょっと長めの小咄『原発皮算用』」

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2019.8.1
落語「ちょっと長めの小咄『原発皮算用』」

これは、1913.9.1のうずのしゅげ通信に載せたものです。

「昭和三十云年、千九百六十云年某月某日のことですな。当時の日本の総理大臣が、アメリカに原発、原子力発電を 買いに行かはりました。総理大臣は、誰とはいいませんが、後にノーベル平和賞をもらはった方ではないかと、 私は推測しておりますが、偉いもんですな、みずから出かけていって交渉しはったんですな。 せやけど、この原子力発電、どこにでもあるという品物やない。アメリカの日本橋みたいな電器屋街の GEという店に入らはったんですな。ジェネラル・エレクトリックいう大きな会社の出店ですわ。
日本の総理大臣 「こんにちは、だれかいたはりますか?」
その総理大臣が大阪弁をしゃべらはったかどうかは知りませんが、奥に声をかけますと……。
GEの番頭 「ああ、ようお越し。これはこれは東洋のお方ですな。 チャイニーズですか? コリアンですか?」
日本の総理大臣 「いや、私はジャパニーズでおますが……」
GEの番頭 「おージャップ、やのうて、ジャパニーズ、それは遠路はるばると、…… それで、きょうは何をお探しですかいな?」
日本の総理大臣 「原発なんやけど……話に入る前に、まずお伺いしますけど、 あんさんは、ここのお店のご主人ですか?」
GEの番頭 「わては、バントウでおますが……」
日本の総理大臣 「何で、そんな英語みたいな発音しやはるんですか?」
GEの番頭 「えっ、なんかおかしいですか、バントウということで、この店を 任されておりますから、そこんところはお気遣いなく」
日本の総理大臣 「番頭さんね。それはよかった。なにしろ高いものやさかい。 交渉相手をまず選ばんとな」
GEの番頭 「それでお買い物は原発でっか、そらもう勉強させてもらいまっせ」
日本の総理大臣 「なんぼになりますかな、あんさんとこで作ったはる沸騰水型軽水炉いうのは?」
GEの番頭 「ほう、調べてきやはったんですな。では、まあ、話がはやい。ぶっちゃけたところで、 見積もらしてもらいまひょか」
日本の総理大臣 「そう願えますかな。……わが国にも、最初に導入したイギリスの 黒煙減速原子炉というのが一基ありますが、……そやつ、安全性は高いものの、 ちょっと金喰い虫でな、算盤に合わんのですわ、それで替えようと思うとるんじゃが……」
GEの番頭 「へーへー、それはよろしおますな。替えてもろうたら、決して損はさせしまへん……。 えーと、ご承知のようにこの界隈はずっと同じお商売でございますし、 朝商いのことでございますし、 あんさんがたのことでございますし、それに、イギリスさんからの 乗り替え割引というのも使えますし、 決してお高いことはもうしません。」
(と、算盤をパチパチと入れて、しばらく考えている)
GEの番頭が算盤を使うかどうかは知りまへんで……。
GEの番頭 「まあ、せいぜい勉強させてもろうて、 うんとお安くいたしまして、どーんとお負けいたしまして、3500億円がところで、…… もうこれ以上は一文も負かりまへんので、……」
日本の総理大臣 「よう、しゃべる番頭やな、えー、何言うたんや、軒並みがずーと同じお商売やさかい、 朝商いのことやさかい、 あんさんがたのことやさかい、乗り替え割引もして、せいぜい勉強して、うんと安うして、 どーんと負けたところで、3500億円が ところで、一文も負からへんと言わはるんですな。」
GEの番頭 「へぇへぇへぇ、まあ、そうですけど」
日本の総理大臣 「ちょっとつかんことをおたずねいたしますが、ひょっとして、これが同商売やのうて、 朝商いやのうて、あんさんがたのことやのうて、割引ものうて、 せいぜい勉強せんと、うんと安うせんと、どーんと負けなんだら、なんぼになります?」
GEの番頭(ちょっと困った表情で、もじもじして) 「えー、3500億円がとこで……」
日本の総理大臣 「おんなじやないか、ほらな、やな……、せやけど商人というのはうまいな、 とんとんとんと運ばれると 安い、買うた、そんな気にさすだけえらいやないか、けども、日本からはるばるやってきたわいの顔を 立ててもらいたい。あんたは日本の総理やから、顔出すだけでそこそこは 安うしてもらえるんやないかと頼まれてやってきたんや。 まさか言い値で買うて帰りましたなんて言われへんやないか、ちょっとわいの顔をたててやな…… この500億円をとってもろうて(と、相手の算盤の珠を動かす)、 3000億円ちょうどというのは、どうやろ? むつかしおまっか? わしはそんなムリは 言うてないはずやけどな、 3000億円の方をとってくれ言うてたら、そりゃむちゃや。そやない、ただこの500億円の方を とってくれと言うてるだけで、 ここんところをよう聞いてもらいたい」
GEの番頭 「つらいですな」
日本の総理大臣 「つらいんは、わかったある、こんなもんは傷もんもでるし壊れもんもでますわな、 つらいのは分かってる。 せやけど、設計ミスや施工ミスもあるかもしれへんわな。そこをあらかじめ割り引いてもろといて、 ……それに後々のこともありまっせ。 わが国もこれからどんどん導入してゆく予定やし、 近所の国にも言うて歩くで、GEの原発 安うてええ、言うてな。どうや?」
GEの番頭「へー、へーと、しゃーないですな。苦しいとこやけど、まあ、 清水の舞台から飛び降りたつもりで、よろしおます。それで手ぇを打ちましょか」
アメリカにも清水の舞台ちゅうもんがあるんですかな。
日本の総理大臣 「よう言うてくれはりました。それでいきまひょ。…… ところで、お聞きしますが、この原子力発電というやつ、電気代はいくらぐらいかかるもんですかな?」
GEの番頭 「そうでんな、まあ、ざっと試算しまして、(と、ふたたび算盤を入れる) 原発の事故がのうて、地元の村や県が適当な補助金で容認してくれてですな(と、算盤を入れる)、 40年稼働させて(と、算盤)、稼働率が80%で(と、算盤)、まあこれは検査もありますから、 実質はフル回転ということでっせ、しゃかりきに働いてもろうて、まあ、1kw時のかかりが9円がとこですかな」
日本の総理大臣 「ほんまにそんなに安いもんですか? 水力が13円、 火力は17、8円がとこかかるさかい、 それがほんとうなら原発は安あがりということになりますわな」
GEの番頭 「まあ、番頭の私が言うてるんやからまちがいおまへん。そうしときなはれ、 ややこしいこと言わんかったら、 見かけは火力発電や水力発電よりも安うなるのが普通でっせ」
日本の総理大臣 「ほんなら、原発の事故があって、補償金を払うて、廃炉や除染に金がかかって、 地元や県がもう補助金で容認してくれんようになって、処分場がなかなか 見つからんで、そんなこんなを考えあわせたら、なんぼくらいになりますかな?」
GEの番頭(パチパチと忙しく算盤をはじいて) 「まあ、60円、70円、……、こりゃあ、たいへんだ、 汚染水漏れが止まらんで、土を凍らして地下水を防いだりしていたら、それこそ電気代は鰻登りになりますな」
日本の総理大臣 「こりゃあたまらんわ、事故があったら、そんなに高うつくもんか。まあ、そんでも 原発を買うのは産業のためばかりやのうて、原発の技術は原爆にも流用できるから大切なんやて、 兄貴が言うてた。原発を持っているということは、まあ一旦ことあるときは、核武装できるんやで、という 威嚇になるらしい。 そやから、少々高うてもしゃあないか……。 それで、原発の安全性はどないですかいな?」
GEの番頭 「安全性はなかなか難しおますな。……まあ、マグニチュード9クラスの地震がのうて、 予備電源が水没しないところにあって、全電源が失われてもすぐに消防車で給水できる準備ができてて、 原発の巨大プラントの細部を理解してる技術者はんらが操作してくれはって、 ベント弁から水素が洩れるようなことがのうて、 いざ事あるときは命がけで突入してくれはる決死隊がいてくれはるようやったら、 まあ99%は安全と言えますかな」
日本の総理大臣 「ほんだら、マグニチュード9クラスの地震が千年に一回くらいあって、 予備電源が水没するようなとこに設置されとって、 巨大プラントの細かいとこまでようわかってる技術屋が少のうて、 ベントが洩れて水素爆発するような原発やったら、 メルトダウンする危険があるという ことですな」
GEの番頭 「まあ、そういうことでんな。せやけど、わが国では、 そんな地震が起こることはめったにおまへんからな。 一万年に一回くらいのもんでっせ。日本も同じちがいまっか?」
日本の総理大臣 「日本はあんさんのお国と事情がちがいますねん。地震もよう起こる。 ツナミもしょっちゅうや」
GEの番頭 「あの英語になってるTUNAMIでおますな」
日本の総理大臣 「Yesです。それだけ多いということですわ。せやのにそんなに安請け合いして ええんかいな。もし、もしもでっせ、 マグニチュード9くらいのどでかい地震が起きて、この原発がたいへんなことになったら、……」
GEの番頭 「そんなことになっても、それは自己責任ちゅうもんや。 原発やからいうてウランだらあきまへんで……」
と、そないなことをGEの番頭さんが言うたか、どうか……。
お後がよろしいようで……。」

(注 GEの番頭と日本の総理大臣の遣り取りは、桂枝雀さんが演じておられる 「壺算」を参考にしました。)



2019.8.1
フェイスブック

〈2019年7月14日にフェイスブックに投稿したものです。〉

「今日は古墳群の句会でした。
以下拙句です。

通信簿に訂正の印てんとむし

百合の蕊くるみしティッシュ朱が透けて

水落つる音を尽くして滝の涼

水無月の雲見誰もをYouと呼び

足垂れて怒涛にますぐ青岬

麻酔覚めて白靴妻が抱へをり

ガリ版の句誌に父の句凌霄花

下の二句が席題の句です。
先月は入院していて欠席したので、久しぶりの句会です。
四句目、雲見、賢治の童話にもあり、雲を見ること。
六句目、入院中は上靴を履いてくださいと言われて、白靴を履いていました。それ以外に白靴を履く機会はあまりないので。
七句目、主宰の内田さんが、「古墳群」の百号記念の、ガリ版刷りの句誌を持ってきてくださったので、それを見て。

後の自由議論。拙句を例に、心覚えのために認めたものなので、スルーしていただいて結構です。
天道虫の句、訂正印を天道虫と見立てたのか、通信簿に天道虫が来て訂正印と詠んだか、という質問があったのです。前者なら凡人と話が盛り上がりました。しかしこれ、考えてみるとなかなか難しい問です。句を読みくだしただけではわかりません。しかし、言われる意味は理解できます。確かに、季語の天道虫が見立てであっては季語そのものを貶めていて、いい俳句とは言えないかもしれません。といって後者だといっても嘘らしさを感じてしまいます。天道虫がそんなに都合よく通信簿に来てくれることはないからです。しかし、この句、私としては、微妙に上の二つの状況を想像して、そのイメージを重ねて詠んだものなのです。ということで、そんなふうに説明したのですが、それでよかったのかどうか。
最後の凌霄花の句を肴に、この句の取り合わせをどう解釈するかの議論もありました。父の句に凌霄花の句があったと想像してくださった方もおられて、それが一番私の意に添っていると思うのですが、それもまた白々しいと言われるかもしれません。そう考えると読む方の解釈の問題となってしまいます。どうなのでしょうか。
私としては、久しぶりにいろんな評が聞けて、楽しい句会となりました。


2019.8.1
俳句

〈2019年7月のフェイスブックに投稿した拙句です。〉


初蝉や老鶯も声ひそめける

  (水遊び)
水風船誰にぶつける夏少女

真夜の蜘蛛ふた跳ねにわれ過りけり

村人の触るる早苗饗(さなぶり)妣の留守

  (昨年のかなんフェス、二句)
青葉木菟すねてフリマの紅テント

青葉木菟ブリキの太鼓買つてやろ

通信簿に訂正の印てんとむし

百合の蕊くるみしティッシュ朱が透けて

水落つる音を尽くして滝の涼

水無月の雲見誰もをYouと呼び

足垂れて怒涛にますぐ青岬

麻酔覚めて白靴妻が抱へをり

ガリ版の句誌に父の句凌霄花

麻酔覚め昨日(きそ)の翡翠まぼろしに

術後養ふ弱冷房の吹き抜けに

老いてなほ世間に馴れず三尺寝

餌やる日課アウシュビッツの蟻地獄

腹話術の人形座して膝暑し

ラムネ飲んで邪鬼のおくびのごときもの

憤怒仏のファイル机上に夏休み

二上山(ふたかみ)を隠さふべしや夏鶯

二上山からメール笹百合天近く

地下街に濡れ傘を巻く桜桃忌

異国の師籐椅子並べ迎へけり

風煽るも噴水の虹動かずに

祇園会や古書の揃ひの持ち重り


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