「うずのしゅげ通信」
2020年9月号
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2020.9.1
自句自解
T、人体模型の臓器に旧字原爆忌
8月20日にフェイスブックに投稿した句で、季語は原爆忌。
私は理科の教師でしたから、人体模型は身近なものでした。
どこの学校でも理科室にはかならず人体模型がありました。
その人体模型、ガラスのケースに入っているのですが、かなり古いものもありました。
私が最後に勤めていた学校でも、かなり古くて、臓器の名前は旧字で書かれていました。
そんなふうな人体模型と原爆忌とを一句の中に並べてイメージを膨らまそうと考えたのです。
旧字で表示された戦前からの古い人体模型が醸し出すイメージが原爆忌にどのように響き合うのかというところです。
もともと人体模型そのものが、原爆の被害を連想させるようなところがあります。
胸の筋肉などが見えるようになっている人体模型もあります。
そして旧字、被爆者を治療した医者は、カルテに旧字を遣って被害の程度を認める人もいたにちがいありません。
また死亡診断書や被害統計などにもまだ旧字が遣われていた可能性があります。
そのようなことが、原爆忌のイメージを膨らませてゆくのではないか、というのが、句の狙いなのです。
その意図が、成功しているかどうかは、句を読んでくださる方の解釈しだいですが、詠んだ意図はそういったところに
あったのです。
一句としてなりたっているかどうかは、私が言うべきことではありませんが、一つの試みとして読んでいただけたらと思います。
U、夏草や七十五年目の原子野
季語は、夏草。夏草の有名な句としては、
夏草や兵どもがゆめの跡 松尾芭蕉
があります。身の程知らずと言われそうですが、この句を踏まえています。
被爆当初、原子野は、七十五年間は草木も生えないと言われていました。
しかし、現実はどうだったのか。被爆からしばらくして、十薬(どくだみ)が生えてきたと言います。
大地の力は、人間が想像する以上に強かったということでしょうか。
それから、七十五年、今年も夏になると夏草が繁茂していると、そんな風景を詠んだものです。
2020.9.1
フェイスブック
〈2020年8月17日にフェイスブックに投稿したものです。〉
「今日の拙句です。
夏草や七十五年目の原子野
気をつけは鎖せる姿勢秋立ちぬ
草いきれ父の教へし匍匐の字
炎天に半跏思惟の昏さかな
手渡さるる夕刊の風秋暑し
玉音のさはり一行劇転ズ
猛暑が続いていて、近つ飛鳥博物館周辺での散歩もままなりません。たまに夕方でかけることもあるのですが、
一時鳴いていた蜩の声も、あまり聞くことができません。暑さを避けて、気温がさがった夜か、すずしい朝にでも鳴いているのでしょうか。
俳句もあまりできません。たまにできる句は、時節柄、どうしても回想の句が多くなってしまいます。
二句目は、例のジョー・オダネルが撮った写真の少年を詠んだもの。
先日放送されたNHKのETV特集「“焼き場に立つ少年”をさがして」を観た影響です。ひさしぶりにいい番組でした。
五句目は、渡辺白泉の句「玉音を理解せし者前に出よ」を踏まえたもの。」
2020.9.1
俳句
〈2020年8月のフェイスブックに投稿した拙句です。〉
父の風鈴母の土鈴と涼しけれ
ふたたびを妻に止まりし夜蝉かな
(永観堂)
見返り阿弥陀のお前自在の扇風機
サックス吹いてそのあと知れずソーダ水
ハイド亡くしてつい片蔭を歩くらし
端居なほ不作為の罪まぬかれず
飛行機雲片蔭不意に濃くなれり
(長崎出身のデザイナー毎熊那々恵さん、上京して)
黙祷のサイレン鳴らぬ都市の夏
(黒い雨訴訟判決)
蓑虫や黒い雨流れし壁とぞ
蓄音機の針を惜しみて夏の果
(散歩の前をゆく老人)
炎天に葛のつるさき踏みてゆく
まず生徒に演じてみせて夏の果
(十四年前の秋、お盆に二句)
天の川サンパウロには恩義あり
妻の封切る遺灰証明鳳仙花
夏草や七十五年目の原子野
気をつけは鎖せる姿勢秋立ちぬ
草いきれ父の教へし匍匐の字
炎天に半跏思惟の昏さかな
手渡さるる夕刊の風秋暑し
玉音のさはり一行劇転ズ
人体模型の臓器に旧字原爆忌
黙祷と黙祷の間(あひ)秋立ちぬ
さるすべりの下にゐて蟻降ってくる
さしで聴く河内音頭に踊りの手
清志郎の君が代跳ねて百日紅
きりぎりす軍服高く売れる世に
蚊柱の寄り来を避(よ)けてよろめける
無観客に吠えて満天鰯雲
蝶の影浮き立ち秋の蝶降り来
黒葡萄に錆びし針金の骨組み
水抜きに蛇の尾何か言ひ残し
今年の寡婦に見えし翡翠われは見ず
お堂は涼し温もらぬもの坐すゆゑ
(昭和三十年代の記憶)
茣蓙に種干す被爆夫婦の秋暑かな
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