「うずのしゅげ通信」

 2022年12月号
【近つ飛鳥博物館にて】
今月の特集

松尾あつゆき

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俳句

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私俳句「ブラジルの月」(pdf)
私家版句集「雛の前」(pdf)
2022.12.1
松尾あつゆき

松尾あつゆきという俳人が長崎におられて、昭和20年8月9日の原爆によって、妻と子ども三人を亡くします。
当時あつゆきは41歳でした。自宅は原爆によって倒壊します。子ども三人を家の前で火葬し、生き残った妻と長女と一緒に とりあえず妻の実家に身を寄せますが、その妻は四日後に亡くなり、小学校で火葬します。
その時のあつゆきの句、

なにもかもなくした手に四まいの爆死証明

読めばわかるようにあつゆきは自由律の俳人でした。
「俳句空間」というBLOGに堀下翔さんがつぎのような考察を書いておられます。

「松尾あつゆき『原爆句抄』に関して」

「荻原井泉水の句集序文によるとこの句は1945年の「層雲」に 「原子ばくだんの跡」(井泉水は「原子爆弾の跡」と表記しているが著者あとがきに従う) として発表された10句中の1句であるという。原爆投下から間もない時期の句である。」

これは驚くべきことです。
爆死証明の句は「原爆投下から間もない時期」に詠まれたらしいのです。
松尾あつゆきは、妻と三人の子どもを亡くして間もない時期にこの句を詠んで、「層雲」に投稿しておられるのです。
「俳句は即興なり」と言われることもあります。
しかし、8月に妻と子ども三人を亡くして、その年度に発行された雑誌に投稿しておられるというのは、 どう考えても信じられない精神力です。その一句だけではなく、10句も詠んでおられるのです。
こういった悲劇を詠んだ俳句は、即興ではなく、時間を置いて詠まれることが多いと思うのですが、 松尾あつゆきは、間もない時期に詠んだのです。
同じ時期に次のような句があります。

かぜ、子らに火をつけてたばこ一本

ほのお、兄をなかによりそうて火になる

葉をおとした空が、夏からねている

蕎麦の花ポツリと建てて生きのこっている

虚脱した目に飛び込んできた風景をそのまま写生したような句です。
死について、一人称の死は自分の死、二人称の死は家族や親しい人の死、三人称の死は他人の死といったふうに分類されることがあります。
三人称の死は事件の渦中でも詠まれることがあるかもしれません。しかし、あつゆきの場合のような二人称の死が 「間もない時期に詠まれる」ことは、そのひとによほど強い精神力がなければ不可能なように思われます。
二人称の死はいつ句となるか、というのが私の疑問です。
宮沢賢治も妹トシさんの死を、これも「間もない時期に」詩にしています。ほんとうの詩人というのはそんなものなのでしょうか。


2022.12.1
フェイスブック

〈2022年11月10日にフェイスブックに投稿したものです〉

「今日の拙句です。

二上山(ふたかみ)を霧の閉ざすや悲劇茫茫

宣告をされなば晴るるほどの霧

霧流る視界の果ては茫茫の滝

榠?立つ老いのことならおもしろい

ぶあいそも老いては匂ふ榠?の実

  (養護学校の劇)
生徒の台詞一人に一つ鰯雲

つひの道か紅葉かつ散る明るさに
  (中継二つ、リトル・オデッサはニューヨークの街)
キーウのコスモス、リトル・オデッサ昼の月

道の辺の榠?の実をだまってひとつもらってきました。
今年の実は、去年の実とくらべて少しひょうたん型で、立ってくれて愛嬌があります。
毎日眺めています。鼻を近づけるといい匂いがします。また、当分は楽しめそうです。」


2022.12.1
俳句


〈2022年11月にフェイスブックへ投稿した拙句です。〉

夕茜天の眉月よう染めず

だんじりのばれの仁輪加や酔芙蓉

残る虫管球ラジオ灯ともりて

蜂去るや蜂の巣軽し秋の風

夏座敷巡るや母の試歩に添ひ

むかし見し夢もどりくる夜寒かな

二上山(ふたかみ)を霧の閉ざすや悲劇茫茫

宣告をされなば晴るるほどの霧

霧流る視界の果ては茫茫の滝

榠?立つ老いのことならおもしろい

ぶあいそも老いては匂ふ榠?の実

  (養護学校の劇)
生徒の台詞一人に一つ鰯雲

つひの道か紅葉かつ散る明るさに

  (中継二つ、リトル・オデッサはニューヨークの街)
キーウのコスモス、リトル・オデッサ昼の月

  (「」は宮沢賢治)
水澄むや「見えないものは、水ばかり」

  (立春には卵が立つと)
立冬の榠?が立ちて匂ひけり

  (養護学校で)
小さきトス緘黙(かんもく)の児に榠?の実

コミュ力といふといへども花梨の実

  (十一月八日の月蝕)
今年ばかりは戦禍の色の月の蝕

  (かつての日本は今のロシアの立場)
渋柿や侵攻といひ事変とも

ワン切りの余韻に落つる熟柿かな

紙一枚が剃刀となる神無月

  (釜蓋の花の地下)
地獄の釜蓋地下百丈に核の護美

熱盛りの蕎麦など喰ふて十一月

  (引っ越して)
ふるさとは焚火のできる柿の家

  (この季節の花粉症)
濡れ衣を着せられさうな石蕗の花

前線は軍(いくさ)のことば紅葉(もみ)いづる

母の通夜フロントガラスに霜の花

  (庭に迷いこんだ子猫に死なれ)
迷惑の受身と言へど子猫の死

双手でスマホ捧げ持ち皇帝ダリア

伏目と言はず半眼慈眼石蕗の花

  (我が家に旗はありませんが)
旗日一日(ひとひ)遷(うつ)りて軽し十二月

クリスマス剥がせば地金の十二月

玉音といふ停戦の妙開戦日

兵士の頭上冬の蝿取りリボン垂れ

冬いちご先逝きし人忘られず



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