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8年の変遷 : パルマハムを作るのに大事なこと
パルマハムを作っていて本当に難しいと思うことは、
こうしておけばおいしいものができるというマニュアルがないということです。
原料の豚腿肉と一言で言っても、
それぞれの大きさ、皮の状態、肉の状態、脂肪の厚さ、全てが異なり、
外観が同じに見えてもその中身に差がある場合が多々あります。
それを長年の経験をもとに毎日プロシュートの顔色を伺いながら、
まさに育てるといった感覚で最高の条件の元においてやります。
それでも残念ながらできたものが全て最高のものにはなりません。
全て最高のものができるやり方を見つけることができれば、
ノーベル賞ものだよと職人仲間とよく話しています。
この難しさがプロシュート作りの面白さでもありますが。
工場に着く原料肉は全てパルマハム協会で認められたものです。
しかし GALLONI ではその中からさらに選りすぐったものを選び、
少しでも状態が良くないものは全て返却します。
これをすることにより最高のものを作る可能性を高めます。
皮、肉、脂肪それぞれの色、状態を見て、
プロシュートになるものに適したもののみを選び、
また骨盤の一部と大腿骨が折れていないかなどをしっかりとチェックします。
このチェックを通ったものだけを整形しますが、
プロシュートの形はパルマハム協会で指定されています。
しかし GALLONI ではさらにその形にこだわり美しさを重要視しています。
日本で目にするプロシュートはほとんどが骨が抜かれ、
圧縮され真空パックになっていますが、
こちらイタリアでは基本的に骨付きのまま流通します。
これは骨を抜くことにより劣化が始まるためそれを避ける意味合いと、
丸ごとのプロシュートの美しさを目で見て楽しむという意味合いがあります。
これはある意味芸術であり、それが全ておいしさに繋がるというわけではありませんが、
その美しさを保ち続けることもパルマハムの伝統の一部だといっても過言ではありません。
サルメリア (プロシュート、サラミ、そのほかの食肉製品を店頭で切り売りするイタリアでの一般的なお店) 等には、
味はもちろんのこと見た目にも美しいものという注文がきます。
店頭で吊るされているプロシュートが美しくないと、
全体的にいいものを置いていないと判断されてしまうこともあるためです。
さてその整形ですが GALLONI では主に8箇所のチェックポイントがあり、
その8箇所を細心の注意を払いながら整形します。
それがプロシュートの美しさを醸し出し、
余分な部分を切除することによる塩の浸透の効率アップなど、
プロシュートの出来具合に関わってきます。
整形が終わると原料肉をマッサージし中に残っている血液を押し出し、そして塩振りです。
パルマハムは塩のみで作られ他の添加物、香辛料は一切使われていません。
この塩振りは原料肉の殺菌、水分の排出、そして味付けと、
パルマハムのおいしさの全てを担っています。
原料肉の大きさ、形、脂肪の厚さ、肉の色を一瞬にして見分け、
それぞれの状況に一番適した量を振り分けます。
大きく分けて8箇所の塩振りポイントがあるため、
最低でも8回の手作業が必要になります。
また、原料肉の温度、季節、豚の種類、様々な要素が複雑に絡むことにより、
塩がどのように浸透するか決まるため、
この作業はとてもデリケートだといえます。
その塩加減が多くなれば塩辛いパルマハムが出来てしまい、
(塩辛いというのは塩振り職人の中では最も恥ずかしいことです)
その塩加減が少なければ様々な欠陥商品が出来てしまいます。
塩振りは2回に分けて行われ、
1回目は殺菌、水分の排出の方に重きが置かれ、
2回目の塩振りはその1週間後、全ての塩を取り除いた後に、
肉の色調の変化を見極め1回目よりもさらに慎重に適した量の塩を振ります。
1回目、2回目あわせて4週間ほど冷蔵庫で保存し (1℃〜3℃)、
その後、塩を取り除き腿肉の先の部分に紐を巻きつけ吊るします。
吊るした状態で再び冷蔵庫の中でおよそ10週間ほど保存します(1℃〜5℃)。
この間に余分な骨 (骨盤の一部) を切り取りもう一度整形をします。
これは本当に形を整えるという作業のため、
本当に切らなければいけないところだけを切ります。
最初の頃、ここは切る必要がないというのがわからなくてよく怒られました。
10週間後、温水で表面の汚れた部分を洗い流し、
20℃前後のところで乾かし、充分乾いたところで、
熟成乾燥室で3ヶ月ほど保存します (15℃〜17℃)。
熟成乾燥が終わった頃に、
表面に豚の脂,米の粉、塩、こしょうを混ぜたものをプロシュートの肉の部分に塗ります。
これも熟練の職人技が必要で
肉の表面を観察しどの部分に厚く塗りどの部分に薄く塗るか判断し、
プロシュートが気持ちよく呼吸できるように調整してやります。
そしてこのまま5ヶ月ほど熟成室にて保存し、
最初の塩振りからちょうど1年が経ったころ、
パルマハム協会から派遣された検査員が認めたもののみが、
「パルマハム」として焼印を押すことができます。
私たちにとってこの「パルマハム」の称号をもらうことは当然であり、
その中でどれだけおいしいものが出来ているかがとても重要なところで、
この2ヵ月後に行われる品質の仕分け作業 (馬の骨による検査) が、
とても緊張する一瞬です。
最初の頃、この焼印作業によりパルマハムが出来上がると感動していましたが、
3時間ほど焼印を押し続けなければいけないため (重く、とても熱い)、
とてもきつい作業の1つです。
焼印が押されることによりパルマハムの出来上がりですが、
GALLONI ではこれから最低2ヶ月ほど熟成させてから出荷を始めます。
これは GALLONI が作るプロシュートは、
14ヶ月経ったころからが食べ頃だからです。
14ヵ月後に鑑定職人が全てのプロシュートの品質の仕分け作業をします。
馬のすねの骨を用い、プロシュートの5箇所のチェックポイントに馬の骨を刺し、
匂いを嗅ぎその匂いとプロシュートの重さによりまず7つのレベルに分けられます。
そこからさらに長期熟成用、注文に応じたレベルのもの、
骨抜き用のものなどなど、多いときで15くらいのレベルに分けられます。
パルマハムは作るというよりも、
育てるという言葉の方が合っていると思います。
これはそのとき、そのときで見せる表情により、
保存している部屋の温度や湿度を変えてやり、
プロシュートが過ごしやすい環境をつくり、
ゆっくり、静かに呼吸をさせてあげるからです。
そのためにどの工場でもそこに住む人がいて、
毎日定期的に工場内をまわりプロシュートの状態をチェックします。
そしてもう1つ大事なことは、
この地方のみでしかパルマハムは作られないということです。
これはこの地方独特の空気でしかパルマハムは育たないからです。
1年を通して、パルマハムが求めている空気を的確に与えてやることにより、
この独特な芳香と深い味わい、しっとりとした食感が得られます。
これは全て長年の経験をもとにした技術が産み出すものです。
季節により見せる表情が違い、
時には調子が悪くなったり、調子に乗りすぎてしまうこともあるので、
どれだけ気持ちよく呼吸させてあげるかが大変重要なポイントです。
こうすれば絶対においしいプロシュートができるというマニュアルがあるわけではなく、
そのときの状態を良く見ながらゆっくり育てるという言葉が当てはまり。
そこがパルマハム作りの醍醐味なのだと思います。
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