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8年の変遷 : 「生ハム」について
現在、スーパーやデパートへ行けば簡単に「生ハム」が買える時代になりました。
私がパルマハムと出逢った時はまだ日本では解禁されておらず
(解禁されたのが1996年で、その数年前です)、
大学での研究用に手に入れるのも本当に大変でした。
食肉加工品の本場であるイタリアやドイツ、スペイン、フランスのお店に比べるとまだまだ見劣りはしますが、
日本のここ10数年の進歩には目を見張るものがあると思います。
ただあまりしっかりとした説明もなく、いろいろな種類の生ハムが横並びにおいてあるため、
私自身とてもわかりにくく感じるので、
ちょっとまとめてみるつもりで日本で比較的簡単に購入できる
「生ハム」各種について私の思いを記したいと思います。
まず私の独断と偏見で日本のスーパーの生ハムの分別をしたいと思います。
加熱していないことは最低条件です。
・「味付け生豚肉」・・・食品添加物あり。熟成はされておらず、
価格を安くするために豚肉は海外の冷凍物を使う場合多数。
ほとんどの日本産生ハム。
・「味付け燻製生豚肉」・・・上記の豚肉の冷燻。
・「有添加長期熟成燻製生ハム」・・・食品添加物あり。長期熟成後、冷燻。
・「有添加短期熟成燻製生ハム」・・・食品添加物あり。短期熟成後、冷燻。
ラックスシンケン、ローシュナイダーシンケンなど
・「無添加長期熟成燻製生ハム」・・・食品添加物なし。長期熟成後、冷燻。
・「有添加長期熟成生ハム」・・・食品添加物あり。長期熟成。
ハモンイベリコ、ハモンセラーノ、ジャンボン・ド・バイヨンヌなど
・「無添加長期熟成生ハム」・・・食品添加物なし。長期熟成。
パルマハム、ジャンボン・ガンダなど
注)長期熟成は9ヶ月以上が妥当だと思います。
一言で「生ハム」といっても様々な種類のものがスーパーなどで並んでいます。
まず簡単に輸入物、国内物に分けられ、
そして燻煙 (くんえん) をしたもの、そうでないもの、長期熟成物、そうでないもの、
また食品添加物を加えたもの、そうでないものに分けられるとおもいます。
燻煙とは食品を煙で燻すことにより煙中の殺菌成分が食品中に浸透し、
また水分活性を下げることによりその保存性を高めることです。
その加工温度により名前が異なり
・熱燻法 (80℃以上、10〜60分)
・温燻法 (30〜60℃、数時間〜1日)
・冷燻法 (15〜30℃、数日から数週間) と呼ばれています。
生ハムには主に冷燻法が用いられています。
次に食品添加物について簡単に説明したいと思います。
食品添加物とは食品を加工、保存するときに使う
調味料、保存料、着色料、香料、発色剤、酸化防止剤、安定剤、漂白剤、防カビ剤などです。
塩や砂糖は昔から食品と考えられているので食品添加物からは除外するそうです。
食品に添加物を加えることにより長期保存が可能になったり、
色合いがきれいになったり、いいにおいがしたり、
食感が良くなったりといった化学的な作用を引き起こします。
食品添加物が体に良くないという話もありますが、
その使い方を間違えなければ体に害を及ぼさないものもあります。
例えば日本で造られている「生ハム」のほとんどに食品添加物が加えられており、
その一例の原材料を見てみると、
・豚肉
・塩
・ブドウ糖 (糖類)
・ソルビトール (合成甘味料)
・調味料 (アミノ酸・・・旨味系)
・酸化防止剤 (ビタミンC)
・発色剤 (亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなど)などと記されています。
生の豚肉に塩、糖分、化学調味料で味付けをし、
発色剤を加えて肉の色調を鮮やかに見せている食べ物といえるでしょう。
発色剤に用いられる亜硝酸ナトリウムは、
(硝酸ナトリウム、硝酸カリウムも塩漬中に酵素により亜硝酸ナトリウムと変化する)
それのみでは急性毒性を引き起こすので (成人で最小致死量2.5g)、
食肉製品中で70ppm (製品1kg中0,07g) と法律で定められています。
亜硝酸塩が普通にこの数値以上含まれている野菜もあります。
また亜硝酸塩と食肉中のアミノ酸が反応し強い発がん性物質のニトロソアミンを作ります。
しかしボツリヌス菌などの中毒を防ぎ、嗜好性を高める効果も認められています。
パルマハムは何度も記したように原料肉と塩のみで作ります。
トレーサビリティー (身元の追跡が可能) を用い、原料肉の豚から厳しい管理をし、
工場についてからも職人の経験と技術をもとにした管理方法で、
塩漬、乾燥、熟成工程を経ることにより、
衛生的にも安全で、おいしいものが出来上がるのです。
全ての工程に最低1年もかかり、気が遠くなるような手間隙がかかりますが、
これが食品添加物に頼らず、自然環境を利用して作るパルマハムです。
この長い熟成期間により、タンパク質がアミノ酸に変化し独特の芳香と旨味を表すので、
アミノ酸を添加する必要がないのです。
また発色剤を使わずとも鮮やかなピンク色をしています。
もちろん簡単なことではないのですが。
重量にもよりますが小さいものでは12ヶ月熟成、
大きさ、技術によっては30ヶ月以上の熟成物もあります。
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パルマハム工場 |
パルマハム30ヶ月 |
ヨーロッパにあるたくさんの生ハムの中から数例を紹介させていただきます。
・イタリア・・・パルマハム、サンダニエレハム、
この二つは塩のみで作られている長期熟成生ハムです。
その違いはサンダニエレハムには豚の蹄が付いていて、
味覚的にはパルマハムの方がDOLCE(甘い)と言われています。
この二つ以外にもたくさんの生ハムがあります。
気になるのはパルマで造られたパルマハムではない生ハムです。
これらが日本でイタリア産生ハム、パルマ産生ハムといって売られているのです。
今、パルマハムを日本で塊をスライスパックした場合、
パルマハムと呼んではいけないことになっています。
パルマで作られパルマでスライスパックしたものがパルマハムなのです。
衛生上の問題上、ある面では正しいと思いますが、
例えばGALLONIは品質上問題はないと判断した場合、
日本でのスライスを認める代わりにパルマハムと名付けられなくなっています。
しかし品質に変わりがなく、
場合によっては日本でスライスするため新鮮でおいしいのです。
問題はそれと同等としてパルマハムではない、
それ用に作った品質のひどいハムが並んでいるのです。
もう訳がわからないですね (苦笑)。
・スペイン・・・ハモンイベリコ(黒色種)・・・べジョータ、レセボ、ピエンソ
ハモンセラーノ(白色種)
イベリコ豚は放牧期間中にどんぐりを食べさせ、
その体重増加量によりレベルが分けられ、
一番格下がどんぐりを食べさせないものです。
以前はバークシャーの純血種だったものが、
最近はデュロックと交配されたもの (イベリコ血統50%以上) も認められています。
ハモンセラーノは白豚で作られた生ハムでイベリコよりも大衆食です。
私が見たイベリコの工場では塩のみで作っていましたが、
一般的にはイベリコもセラーノも食品添加物を入れるところが多いようです。
燻煙は行いません。
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ハモンイベリコ30ヶ月 |
ハモンイベリコ工場 |
・ドイツ・・・ラックスシンケン
ローシュナイダーシンケン
ラックスシンケンは豚ロース肉を用い、
ローシュナイダーシンケンは豚腿肉を用い、骨付きのものもある。
共に発色剤、香辛料を使い、ほとんどが冷燻法を用います。
・フランス・・・ジャンボン・ド・バイヨンヌ (食品添加物入り)
ジャンボン・ノワール・ド・ビゴール
ジャンボン・ド・オーヴェルニュ
・ベルギー・・・ジャンボン・ダルデンヌ
ジャンボン・ガンダ (豚腿肉、塩のみ)
全てのハムの作り方が正確にわかるわけではないのですが、
食品添加物を用いたり、冷燻を行ったりと様々です。
ただベルギーのジャンボン・ガンダは添加物を用いず、塩のみを使い、
燻煙は行わずパルマハムと同じような製法をするそうです。
熟成期間はドイツのものを除き (ドイツのものはかなり短い)、
1年前後から長いもので30ヶ月を越えるものもあります。
日本でも生ハムを造っている方が幾人かおられるようですが、
簡単なことではありませんのですごい挑戦だと思います。
ただパルマハム方式と名乗るのであれば一人のパルマハム職人として、
できる限りその作り方を忠実に守ってほしいと願っています。
パルマハム方式を名乗りながら添加物を入れていたり、
他の香辛料を入れているのを見るとどんなものかと考えてしまいます・・・。
職人としてプライドをしっかり持ち、
本場を越えるような日本独自の生ハムを作れたら、
本当にすばらしいことだと思います。
日本に「生ハム」の文化が根付こうとしていること、
とても嬉しく思っています。
しかし日本産生ハムが私の周りの職人から、
「SASHIMI豚肉」と馬鹿にされているのも事実です。
値段の高いもの、値段の安いものにはそれぞれ理由があるはずです。
世界的に見ても食肉加工品に食品添加物は入っていて当たり前であり、
特に亜硝酸塩は食肉製品の加工における嗜好性の向上にも関与しているとも言われ、
私自身もスペインの現地で食べたハモン・イベリコ、ドイツの食肉製品、
特にソーセージやラックスシンケンなど好きなものもたくさんありますが、
私の中でパルマハムは別格です。
添加物に頼らず、頑なに守り続けたその歴史、職人の経験、技術に対し、
心の底からすごいと思い、感動し、尊敬しています。
ちょっと言い過ぎに思われるかもしれませんが自分の人生をかけてしまったので、
ここまで言っても良いかなあと・・・。
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