・意味のない呼称について

   「特級」「一級」「二級」(うおー。なつかしい。思い出すだけでも吹き出しそう)と いう表記をご存知であろうか?ひょっとすると知らないと言う人もそろそろいるのかもしれない。つい最近 まで使われていた日本酒の“等級”というやつである。
   この等級であるが、普通誰でもこの表記をみれば「特級」は美味くて高品質、「二級」 は不味くて低品質だと思うであろう。しかししかししかしーーーー。この等級は品質とは全然無関係だった のである。
   実はこの等級、極端に言うと審査を受ければどんな酒でも特級になれたのである。 審査に出される酒のサンプルには特別な化粧がなされていた。(これは公然の事実である)品評会とか そういったたぐいならまだしも法で定められた呼称のための審査がこれなのだからあきれたものである。 だいたい、なぜサンプル“提出”なのか?立ち入り検査での“採取”してこその“審査”ではないか。 ・・・・・・まあ審査はそういったわけでたいした難関でもなかったが、 その代わり高い税金を払わなければならなかった。「特級」という呼称を税金で買ったようなものである。 参考までにその税率を示しておくと、

特級課税率               38.4%(1.8Lあたり917円(?!!))
一級課税率               26.6%
二級(無鑑査)税率     13.9%

この審査というのが何を基準にしているのかはっきりしなかった。国にしてみれば税金が多く採れた方が いいに決まっているので、申請されればOKを出したわけだ。そこでいい酒を安く売ろうとする酒造会社 は酒に自信があっても意図的に審査に出さず、すばらしい品質の酒を「二級」のまま売り続けた。 もしくは、当初特級の審査を通るには500L以上の貯蔵量が必要という、質とは何の関係もない「量造る ところにしか(すなわちでかいところにしか)特級はやらないよ」みたいな制度もあり、 自信を持って重税を覚悟して審査に出しても書類で落ちてしまう、という聞くのもアホらしい話もあった ようだ。

   こうして外国からの日本酒はじめ酒税制度全般のおかしさの指摘(やはり 日本の行政の得意技、外国に何か言われないと何もしない)や、公然と2級酒の方が高く 売られている現実(供給の少なさ+質の良さ。すなわち市場原理だ)から、この級別制度は 特級が1989年に、1,2級が1992年に廃止になった。
   ところが、今度は各蔵で(これはおそらく大手の会社がはじめたことであろう) 勝手な名称を付け始める。「特選」「上選」「佳選」・・・etc.やめろって言ってるのにどうして消費者 を混乱させるような基準の曖昧な品質表示をするんだろうか?表示すべき内容は他にいくらでも あるだろうに。(例えばアル添をしていたとして)アルコールを何%加えているとか品質そのもの に関わる表示をあげればきりがない。戦前からの統制制度から脈々と続く既得権益だとばかりに 何の情報開示もしないくせに曖昧な品質表示で売らんかなとする・・・あ゙あ゙ぁぁぁ〜〜もういやに なってきた。

   ・・・フランスにはワインに関して中身の質の表示に関してとても厳しい法規定が ある。ラベルを見るとどんな等級かわかるし、表記内容には信用がおける。これはフランスのワインが 生産量No.1のイタリアより先んじて世界中で大成功した大きな要因のひとつである。こういった産業の 質を高め、発展させるというような思い切った公正で厳格な規格制定は法規定によって利害のない(?) 公的な力が働かなければ絶対できない。この世で最も古い食品に関する法律、ドイツの 「ビール純粋法」は下面発酵とともにドイツのビールの品質の向上、個性の創造に大きな役割を 果たした。“それが最も美味いビールの作り方だ”などとここで主張する気はないが、この法律を つくったこと、それを頑なに守り、その公正で厳格な条件の下での切磋琢磨により、現在のドイツの ビールの地位はあるといっても過言ではなかろう。この自国の文化などへの真剣な取り組み、その 明確な主張を貫き他にその価値を問う。それだけでもこのビール純粋令は賞賛されてしかるべきだ と思うがどうか。

   それに比べて我が国の行政・業界の情けないこと。明治維新以降、日本にはまだ舶来崇拝があるが、 その崇拝するのはうわべの華やかさだけで、そういった精神的な部分は全く取り入れられない。 その精神こそ見習うべきものであったのに。日本のよいところは捨て去り、うわべだけ合理主義、 うわべだけ個人主義、物理的な所有欲・・・etc.悪いところ同士組み合わせた感じである。 まあ明治維新の方向、数々の戦争、戦後の儲け主義などがもたらせたものなのかもしれないが。

   まだ今ならどうにかできると思う。生みの苦しみとかがあるかもしれないが、 自分たちの保身ばかり考えず、誰にもわかりやすい公正で厳格で正直な制度・ルール・規則を! これは日本酒に限ったことではないが、とりあえずできることから、自国の足場を固めるような ところから。何度でも言うが、そんなに無茶なことはいっていないはずだ。

  

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