・活性炭について

   炭(すみ)臭いという言葉がある。“炭”とは文字通り、炭のことである。「炭臭い」とは 日本酒の加工技術の一つ“活性炭濾過”で大量の炭を使ったときにつく匂いのことである。「え??日本酒 にそんなことするの?」と思う人もいるかもしれない。しかし、廉売されている日本酒のほとんどはこの 活性炭濾過が行われている。桶買い、屑米使用、アル添糖添、合成調味料添加などで濾過で雑味や雑臭(個性や香りではない)を 取らなければ売れないような品質のものばかりなのである。桶買いのところでも触れたが、「日本酒は 肝臓によくない、焼酎の方がいい。」とかいう意見も(その人が何を根拠にしているかは不明だが、)全く 否定の余地がない。

   この活性炭濾過、もともと品評会出品酒用に大正末期に登場した。燃料に使われていた ものが濾過材に使われるとは考えられなかっただろう。品評会では酒を並べてきき酒していく。雑味が あるものは(それがよい意味で個性であっても)減点された。また“雑”味は色調でも判断された。活性炭 で色をとるととりあえず色沢での点がよくなるのでいい成績が得られやすかった。そこで活性炭濾過が密かに 横行する。そっとやるのだが、どこからか輸入炭素業者が蔵に売り込みにくる。効果が目に見えるから飛び つく・・・大量の炭素を使うのを「酒屋が炭団屋を始める」などといったらしい。
   活性炭濾過が醸造技術か加工技術かといったことが激しく議論されたらしいが、(加工 技術に決まってるじゃないか、全く・・・)やがて活性炭濾過の酒が識別されるにあたり、品評会には活性炭 濾過法の酒は禁止となった。しかし議論しているうちにこの技術は市販品に使われるようになった。低品質、 くせのある酒には効果的だった。「市販品に使われる技術を何故品評会で使っちゃいかんのだ?」という (おいおい、逆だろそりゃ)何が何だかな議論がことあるごとに蒸し返され近年の地酒ブームの辺りまで も続く。出荷で使われ続けたので、業界常識として「色のある酒はだめ」という何の根拠もない形が 定着してしまう。私など色がない方が不気味に感じてしまうがはて・・・?これは鱈子を毒で赤く染めたり、 蓮根を毒で漂白することなどとちょっと類似している。消費者を馬鹿にしているのだろうか?まあそれ はさておいても酒の個性がどんどんなくなっていった。翻弄された地方の酒も濾過に励んだ。ますます 酒は個性がなくなる。色はない、味はない、匂いはない。

   まあ酒造りは失敗することもあるであろうから、止むに止まれず、酒を無駄にしない ために涙を飲んで最低限の濾過を行う、というのならまあありであろう。それを止める権利はない。 問題にするのは冒頭に述べた「廉売の酒のほとんどに活性炭濾過が行われている」というところである。 色のない酒、味のない酒が業界常識となり、酒が戦争など様々な変遷を経て歪められていくとき、この 活性炭は効果絶大であった。大量生産で発酵中の細かい神経を使うことができない酒と、 桶買いの酒を混ぜる。さらにその酒にはアルコール、糖類、化学調味料、酸味料 が混ぜられている。これはもう考えるまでもなく、うまくないに決まっている。そこで活性炭の登場 である。しかも当然大量の。酒の量の3倍ぐらい使ったりする例もあるようだ。(ああ気持ち悪い。) しかし、大手の会社が大量の普通酒を造ってこれたのはこの活性炭のおかげなのである。そしてこれを 宣伝のもとで大量販売する。当時売られていた酒は9割方これであり、日本は経済最優先時代で、しかも 日本人はそういったことにとかく無関心であることから、「これが日本酒の味」ということで消費者は 慣らされた。そしてこれらはさらにいい加減な級別制度の上級酒でもあった。 審査は減点法のため、色なく、味なく、個性もうまみも微妙な違いもないものが(いかにも日本的だ) 通りやすかった。全国で同じような、しかも炭臭い酒が生産された。続けた結果消費者に捨てられた。 いや、メーカー群が消費者を捨てたのだ。
   この悪はさらに影響を続ける。地酒が台頭してきてしっかりしたつくりのもの、個性の あるもの、味のあるものを選ぼうという段になり、長く酒販流通に携わる人は濾過しない酒をよし としなかった。結局のところ現在もどの酒屋に置いてある酒も同じである傾向にある。酒屋もただ「売れる ものよこせ」というから流通も過去の価値観で言う無難なものをまわすのだ。自分の商売にぐらい ポリシーを持って望んでほしいところだ。

   濾過しなくとも丁寧な低温吟醸造りで色がほとんどついていない、すばらしいうまさの 酒もある。濾過をしなければ人前に出せないような酒はいい酒ではない。明白である。しかし“炭臭い” 大量廉価酒が今だ市場のほとんどであり、多くの人がそれを認識していないのもまた事実である。何故 認識しないのか?おおっぴらには公表しないからである。またまたではあるが表示義務を!そうでないと まともな酒が本当に浮かばれない。無法は良酒を確実に駆逐している。もう日本酒の蔵元は1500程度に 減ってしまった。

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