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・第17回 幻の「被災地復興計画」 (2013/10/10)
・第18回 「三つの原子力ムラ」 (2013/10/15)
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・第21回 原発ゼロの国民運動・統一戦線への展望(2) (2014/1/28)
・第22回 原発ゼロの国民運動・統一戦線への展望(3) (2014/3/27)
・第23回 地政学・国防論からみた原発再稼働 (2014/5/26)
・第24回 原発ゼロの国民運動・統一戦線への展望(4) (2014/9/8)
・第25回 財物賠償の現状と問題点 (2015/2/27)
・第26回 電力小売自由化は原発ゼロへの一里塚(1) (2015/12/24)
・第27回 電力小売自由化は原発ゼロへの一里塚(2) (2016/1/12)
・第28回 果樹園(梨畑)における営業補償(賠償)と伐採補償(賠償)の違い及び資産としてみた果樹の特殊性について(1) (2016/1/25)
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・第34回 電力小売自由化は原発ゼロへの一里塚(5) (2018/3/1)
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第27回 電力小売自由化は原発ゼロへの一里塚(2)
2016/1/12
年明け早々、熊本一規先生から「電力システム改革で原発を潰せるか 2」の原稿をいただきました。
原発問題に限らず、「安保関連法」に関した国民運動の場合にもいえることですが、「しっかりした論拠を示して、相手側の論理を打ち破る」という姿勢が、今、求められているのではないでしょうか。
「15年安保」は国会では「強行突破」されたわけですが、結果として、若者を政治に目覚めさせただけでなく、ネット活用による国民各層の自発的・自主的な政治行動の盛り上がりという、新しい局面が開かれました。日本国民は新しい力と展望を手に入れたといえます。
この7月の参院選あるいは衆・参同日選挙で、この「新しい力」が、主導性を発揮し、「安保法制廃案・立憲主義回復」を旗印に「統一候補」が擁立できれば、「大善戦」するのではないでしょうか。
この運動の「うねり」は、原発ゼロを目ざす運動にとっても、大きな励みになることはまちがいありません。
加えて、電力小売自由化を契機とした、いわば、「地湧きの力的な脱原発の電力会社選び」運動は、想定を超えた力を発揮することになる予感がします。
「事実を並べて、道理を説く」姿勢に徹した熊本一規先生の第2回の論文を以下に掲載いたします。
なお、この原稿が最終稿ではなく、局面の展開にあわせて、続稿も予定しているとのことです。
電力システム改革で原発を潰せるか2
熊本一規
電力会社が原発保護策を要望
前回「電力システム改革で原発を潰せるか1」で述べたように、2016年4月の小売全面自由化により、家庭を含めた全需要家が電力の小売事業者を選べることになります。新電力の参入を迎え撃つ形になる電力会社は、小売全面自由化をつうじて新電力にシェアーを奪われることを恐れています。
これは、本当は不思議なことです。なぜなら、電力会社は、すでに七十年余りの電気事業の実績を持っており、また多くの発電所も所有しているのですから、新電力と競争することになっても、本来は十分に強いはずなのです。
にもかかわらず、電力会社が小売全面自由化を恐れているのは、電力会社が原発を所有しているからです。これまで経産省や電力会社は「原発の電気は安い」を宣伝してきましたが、実は「原発の電気は高い」ことを知っているのです。そのうえ、従来の地域独占の下では発電所建設に投資しても電気料金をつうじて確実に回収できたのに、発電が自由競争に変わると、電気料金をつうじて回収できる保証がなくなります。そうなると、建設費の高い原発は火力等よりも回収不能になる恐れが高まり、不利になるのです。
そのため、電力会社は、「電力改革が実施されると原発は維持できない」と主張し、かねてから電力システム改革に備えた原発の保護策を経産省に要望してきました。
前回は、主として小売全面自由化について説明しましたが、今回は、経産省がどのような原発保護策を実施しているか、また目論んでいるかを見ていくことにしましょう。
差額決済契約付き固定価格制度
2014年8月、経産省は、総合資源エネルギー調査会原子力小委員会において、原発で発電した電気に一定の買取価格を保証する制度の導入を提案しました。
図1 差額決済契約付固定価格制度
出典:総合エネルギー調査会 原子力小委員会資料
この制度は、固定価格買取制度の一種であり、「差額決済契約付固定価格制度」と呼ばれています。原発を維持するために、廃炉や使用済み核燃料の処分に必要な費用を含めた基準価格(strike price,図1の赤色の横線)を設定し、市場価格が基準価格を下回った場合に、その差額を15年間にわたって国が原子力事業者に支払う(図1の緑色部分の面積)、逆に市場価格が基準価格を上回る場合には原子力事業者が差額を国に返還する(図1の赤横線を上回る青色部分の面積)仕組みを導入するという制度で、明らかな原発保護策です。
経産省・電力会社は「原発の電気は高い」ことを知っているからこそ、このような原発保護策を画策しているのです。
しかし、そもそも、原発について保護策を設けることは、電力に競争原理を導入しようという電力自由化のそもそもの趣旨に反します。また、固定価格買取制度は、再生可能エネルギーのように、当面はコスト高でも普及する意義があり、かつ普及→大量生産に伴ってコストが逓減することが見込まれるような電力にのみ例外的に適用し得る制度であり、それらの条件を満たさない原発に適用すること自体が間違いです。さらに、今まで「原発の電気は安い」とさんざん宣伝しておいて原発保護の固定価格買取制度を導入するなど、到底理解を得られるはずがありません。
原発最優先による不合理な出力制御
太陽光や風力は「自然変動型電源」と呼ばれています。天候によって発電量が左右されるからです。電力は、需要変動に応じて供給しなければなりませんから、自然変動型電源を導入するには、需給ギャップを調整する調整電源が必要です。
調整電源として最も優れているのは、火力です。燃料の量を調整することで容易に発電量を調整できるからです。原発は、発電量を変動させると核燃料を傷めたり、事故の危険性が増したりするため、調整電源には使用できません。
図2 発電の優先順位と出力制御
出典:総合資源エネルギー調査会基本政策分科会 第16回(2015年1月22日)
図2は、電力需要の変化に応じた原発・火力・太陽光の発電の優先順位と出力制御を示したものです。経産省は、まず原発をベースロード電源(一年中安定した需要部分に対して供給する電源)として最優先し、次に自然変動電源(図2では太陽光)を導入し、その後に調整電源として火力を使おうとしています。そして、火力の出力制御で不十分な時には、太陽光の出力制御を行なうとしています。
この出力制御の手法は、発電コストを高くする、きわめて不合理な手法です。
なぜなら、図2では、原発の設備利用率(一定期間に実際に発電した電力量/一定期間に認可出力いっぱいでフル稼働した際に発電し得る電力量)を70〜80%としていますが、実際の原発の設備利用率(五カ年平均)は、福島原発事故以前に約65%、福島原発事故以降2012年まで含めると40%台しかないのです。原発は、調整電源に使えないので、ベースロード電源として使わざるを得ないのですが、ベースロード電源としての要件(設備利用率80%程度)を満たせない失格電源なのです。他方、火力は設備利用率80%台後半を実現できますから、調整電源としてのみならず、ベースロード電源としても安価な発電を実現できるのです。
原発・石炭火力・石油火力の発電原価と設備利用率の関係を示した図3によれば、設備利用率65%の時の原発の発電原価よりも、設備利用率80%台後半の時の石炭火力の発電原価のほうが安いことは明らかです。LNG火力の場合も同様です(詳しくは拙著『脱原発の経済学』を参照)。
図3 発電原価と設備利用率
出典:『脱原発の経済学』89頁
したがって、図2の原発部分をそっくりそのまま火力に置き換えれば、発電コストは安くなります。そのうえ、図2で太陽光・地熱以外はすべて火力になり、火力の出力制御の幅が大きくなりますから、太陽光の出力制御は少なくてすむことになります。
経産省が、これほど不合理な手法を採用しているのは、「べースロード電源としての原発」を最優先しているから、要するに、原発を保護しているからです。
託送料金による原発保護
電力システム改革により、発電と小売は自由競争になりますから、それらの料金は各企業が自由に設定できる自由料金になります。他方、送電は、当面は電力会社、発送電分離後は一般送配電事業者が地域独占で担います(送電を自由化すると送電網が企業の数だけ必要になってしまいますから送電が地域独占になるのはやむを得ません)から、その料金は規制料金(公共料金)として、経産大臣の認可を経て決められます。現在は、新電力が電力会社の送電線をつうじて送電する際に支払う料金を「託送料金」と呼んでいますが、発送電分離後は、新電力のみならず電力会社も一般送配電事業者に託送料金を支払うことになります。
したがって、電気料金に原発保護策を盛り込むには、送電料金、すなわち託送料金に盛り込むしかありません。そして、実際、経産省と電力会社は、託送料金に原発保護策を盛り込んでいますし、また、これから盛り込もうともしています。
以下、託送料金に含まれている、あるいは含めることが目論まれている原発保護策について見ていきましょう。
電源開発促進税
託送料金には、電源開発促進税が含まれています。
電源開発促進税は、オイルショック直後の1974年に、石油に代わり原発等を促進する目的で制定された税です。その使途は、電源立地勘定と電源利用勘定とにほぼ半々に分かれますが、電源立地勘定からは、大規模発電所の立地に伴う電源三法交付金が交付され、電源利用勘定からも高速増殖炉の開発などの原子力の研究開発にその多くが支出されています。要するに、原発を初めとした電力会社の大規模発電を促進するための税金です。
そのような電源開発促進税を託送料金に含ませて新電力にも負担させることは、明らかに不当です。
再処理費用未回収分
原発で発電に使用された後の使用済み核燃料は、一定期間冷却されたのち、中に含まれているウランやプルトニウムが抽出されて再び燃料とされます。この工程を再処理といいますが、再処理費用もまた、次に述べるように、すでに託送料金に含められています。
再処理費用に関しては、「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律」が2005年に制定され、2005年10月から、使用済燃料再処理等積立金が積み立てられることになっています。電力会社は、積立額を電気料金に含めて回収します。
この制度ができる前、すなわち2005年10月以前の再処理費用は電気料金に含まれていませんでした。そのため、それら未回収分の再処理費用も電気料金に含めて回収することとされました。
ところが、2000年から新電力が生まれていますから、電力会社から新電力に切り替えた企業からは、電力会社の電気料金に含めて回収することはできません。そのため、新電力の支払う託送料金が目を付けられ、新電力に切り替えた企業からの回収は、2020年9月までの15年間にわたって託送料金に含めて回収することとされたのです。
しかし、企業は、日々新たに生まれますから、新電力の顧客である企業が、2005年10月以前に電力会社の顧客であったとは限りません。2016年4月以降に新電力の顧客となる家庭についても同様のことがいえます。にもかかわらず、2005年10月以前の再処理費用未回収分を託送料金に含めて新電力の全顧客に負担させることは明らかに不合理です。
廃炉費用
再処理費用を託送料金に含めるにとどまらず、原発の廃炉に要する費用まで託送料金に含めることが画策されています。
原発は、40年あまり発電した後、廃炉にされます。
原発の廃炉費用に関しては、原子力発電施設解体引当金制度が設けられています。原子炉の廃炉費用は多額であり、かつ発電時点と解体時点にタイムラグ(時間のずれ)があることから、世代間の負担の公平を図るため、廃炉費用を発電時点の電気料金に含ませるための制度で、廃炉費用の90%にあたる額を発電実績に応じて積み立てることとされています。例えば、想定総発電電力量(当該原発が40年間に発電すると見込まれる総発電電力量)のうち60%をすでに発電しているならば、廃炉費用×90%×60%を積み立てておくのです。
ちなみに、何故90%かといえば、火力の場合には火力発電所の廃炉時に解体費用を一括計上することになっているため、原発解体費用も解体時に火力の解体費用相当額を計上することとし、残り90%を積み立てることにしたと説明されています(いいかえれば、原発の廃炉費用は火力の10倍に当たるということです)。
以上のように、原発の廃炉費用に関してはすでに電力会社による積立制度が設けられており、電力会社の電気料金には含まれていますが、新電力の託送料金には含まれていません。2016年小売全面自由化の後にも、2020年発送電分離までは、託送料金には含まれません。
ところが、発送電分離後には、原発の廃炉費用を託送料金に含めることが目論まれているのです。
再処理費の未回収分を託送料金に含めることに関しては、「2005年までの電気料金に含めるべきであったのに含めていなかったから」という理屈が全く成り立たないわけではありません。しかし、原発の廃炉費用に関しては、積立金制度が設けられ、発電実績に応じて積み立てられているのです。にもかかわらず、なぜ原発を所有していない新電力の顧客が託送料金をつうじて原発廃炉費用を負担させられるのか、全く理屈が成り立ちません。
最終決定権を市民が握る
2014年4月に策定されたエネルギー基本計画には次のように記されています。
震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減する。ここが、 エネルギー政策を再構築するための出発点であることは言を俟たない。……
原発依存度については、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる。
ところが、電力システム改革実施に向けた具体的な制度づくりにおいて、経産省と電力会社は、躍起になって原発保護策を講じています。国民の目が届くエネルギー基本計画では「原発依存度低減」を謳っておきながら、実際の制度づくりでは、それと矛盾した原発保護策を講じているのです。
しかし、それらの原発保護策により原発が保護され、脱原発がすすまないのではないか、と悲観することはありません。なぜなら、電力小売全面自由化により、どの小売事業者から電気を買うかの最終決定権を市民が持つことになるからです。
従来、パブコメや公聴会で脱原発の声が圧倒的多数であっても、世論調査で脱原発が6−7割を占めていても、十万人規模のデモが行なわれても、脱原発の方向に進まなかったのは、最終決定権を持つのが国だったからです。しかし、電力システム改革で、どの小売事業者から電気を買うか、どの電源を伸ばすかの最終決定権を持つのは、国から市民に移るのです。
東京新聞(2015年12月20日)は、電力自由化に際して都民の約6割が東京電力から新電力への切り替えを考えているとの調査結果を伝えています。2016年4月に向け、小売全面自由化のこと、及び新電力の電気料金のほうが電力会社よりも安いことが周知されていくにつれ、この比率はますます上がっていくでしょう。脱原発にとってかつてないほどの順風が吹いています。
ただし、油断は禁物です。経産省・電力会社は、国民の目が届きにくいところで原発保護策を講じようとしますから、電力システム改革の制度づくりの細部にまで目を光らせて、監視し、原発保護策を批判していくことが重要です。
原発保護策についての監視・批判を怠らず、また新電力に参加する多くの企業と提携していけば、最終決定権を持った市民が勝利することは間違いありません。
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