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●是正勧告の事例
割増賃金を支払っていない。
●是正勧告・事例の詳細
A社は労働時間を午前9時〜午後6時までとしている。通常は毎日2時間程度の残業が必要で、従業員に残業を命じていたが、割増賃金を支払っていなかった。従業員も1日1〜2時間程度の残業はあたりまえと考えており、とくに割増賃金についてのクレームはなかったが、労働基準監督署の調査で「割増賃金の未払い」を指摘され是正勧告を受けた。
●是正勧告書の内容
法条項等 |
違反事項 |
是正期日 |
労働基準法
第37条 |
従業員に時間外労働をさせていたにもかかわらず割増賃金を支払っていないこと。
(従業員と協議の上、その同意を得て過去に遡って支払うこと) |
20・6・11 |
●なぜ是正勧告を受けたのか?
当然のことですが残業代を支払っていなかったことが是正勧告を受けた理由です。この会社の場合、従業員自身が残業を当然のことと考えており、残業代の不払いも半ば認めていたわけですが、従業員がどう思おうと法律が最優先されるため割増賃金を支払わないことは認められません。
残業代については次の割増賃金を支払うことが決まっています。
時間外労働の場合・・・2割5分増しの賃金を支払う
休日労働の場合・・・・3割5分増しの賃金を支払う
以上のように法律で決まっているかぎり、会社は従業員の残業代を過去に遡及して計算し、期日を指定して支払わなければなりません。過去分というのは法律で決められた最大2年分の残業代のことですが、実際に2年と勧告されるケースはそれほどありません。通常は、過去1年、過去6カ月あるいは過去3カ月と指導されことが多いでしょう。
また上のA社のように「従業員と協議の上、その同意を得て過去に遡って支払うこと」と期日を指定しないで勧告することもあります。この場合は従業員と十分に協議し、一人一人の同意を得たうえで過去何年分まで遡及するかを決めるようにします。
もし時効最大の2年と勧告された場合は、何らかの理由があると考えられます。思いつく理由としては、
1.労働基準監督署の調査のさいに監督官への対応がよほど悪かった。
2.タイムカードを改ざんするなど悪質な行為が発覚した。
3.従業員が残業代の不払いを労基署に申告(内部告発)した。
4.会社規模や資金力から見て2年分は支払えると判断された。
などがあげられます。3.4.については仕方ないにしても1.と2.については防げるものなので、労働基準監督署の調査があったときは、できるだけ真摯に対応したいものです。
このほか、サービス残業の事後処理についていくつか書いておきます。
1.残業代の計算はどうするか?
遡及分の残業代については、法律で決められた方法で正確に計算しなければなりません。残業代の計算は通常、以下の計算式によって行います。
・時間外労働割増賃金(例)
基本給+手当(通勤、時間外手当相当分を除く)÷1カ月平均所定労働時間×1.25×時間外労働時間数
・休日労働割増賃金(例)
基本給+手当(通勤、時間外手当相当分を除く)÷1カ月平均所定労働時間×1.35×時間外労働時間数
2.今後、残業代をどう支払うか?
サービス残業の指摘を受けた会社が取り組むべきことで、もう一つ重要なのが今後の賃金をどうやって支払っていくかです。会社はそれまで残業代を支払わないで経営してきたわけですから、資金繰りが大変になります。残業対策をせずに運営していれば、人件費が驚くほどアップして立ち行かなくなることもあるでしょう。そこで、少しでも残業時間を減らす仕組みを考えなければなりません。
法律では「1カ月単位の変形労働時間制」、「1年単位の変形労働時間制」といった、労働時間の運用を工夫することで残業時間を減らす方法を認めています。また、社員が同意すれば「定額残業制度」(固定残業手当)のような手法によって残業代の一部を毎月の給料に含めてしまう方法もあります。これらを導入するためには就業規則の変更、賃金規程の変更、契約の見直しなどが必要になりますが、採用すれば残業対策の大きな手助けとなります。
●是正報告書の書き方
是正勧告の指摘箇所
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是正報告書の記載例 |
〔時間外労働の協定がない〕
従業員に時間外労働をさせていたにもかかわらず割増賃金を支払っていないこと。
(従業員と協議の上、その同意を得て過去に遡って支払うこと) |
〔是正報告書の書き方〕
ご指摘の割増賃金につきましては従業員と協議の上、平成○年2月支給分賃金までさかのぼり支給しました。別紙に賃金台帳と領収書の写しを添付します。
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