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●是正勧告の事例
減給制裁の規定が間違っていた。
●是正勧告・事例の詳細
C社では従業員の遅刻が一行に減らないのに困っていた。そこで就業規則に制裁規定を設け、正当な理由のない遅刻に対し1回5千円の減給ができるようにした。それ以来、従業員の遅刻は減ったが、遅刻の常習犯である労働者山田花子については改善の様子がみられず、ある月などは5回も遅刻を繰り返した。そこで就業規則の制裁規定を根拠に減給することとした。山田花子の月給は20万円だったので、遅刻5回分にあたる2万5千円を差し引き、17万5千円を支払った。しかし、この処分に不満を持った山田花子は、労働基準監督署に訪れ、是正してもらうよう訴えた。
●是正勧告書の内容
法条項等 |
違反事項 |
是正期日 |
労働基準法
第91条 |
労働者山田花子に対する1回の減給の額が平均賃金の1日分の半額を超えていること。一賃金支払期間における減給の総額が当該賃金支払期間の10分の1を超えていること。
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20・6・11 |
●なぜ是正勧告を受けたのか?
従業員の規律違反や職務怠慢などに対して、減給や出勤停止などの制裁を行うことは問題ありません。ただ制裁を行うときは、法律で決まった範囲内で行わなければ違法行為となります。
C社の場合、遅刻1回に対し5千円の減給としたところが間違いでした。減給については、以下の2つの制約が設けられているからです。
・1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えないこと
・総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えないこと
まず山田花子の月給は20万円。これから平均賃金を計算すると、およそ6600円になります。減給を行うときは上でも書いたように「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない」わけですから、最大でも3300円(6600円の半額)を超えてはならなかったわけです。それを1回につき5000円カットしていたので法に抵触しました。
※平均賃金は「算定事由発生日以前3カ月間に支払われた賃金」÷「3カ月間の総日数(暦日数)」で計算します。
また山田花子は1月に5回遅刻をしたため2万5000円が差し引かれましたが、これについても上の条件「一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えないこと」に抵触しています。山田花子の場合、月給20万円ですから、その10分の1である2万円までしか差し引くことができなかったわけです。
それではどのように処理すればよかったのでしょうか?
まず就業規則に1回につき5千円と金額を入れてしまうのは間違いです。従業員の給料によって減給できる額は変わってくるので、金額を入れずに単に「平均賃金の半額まで減額する」と記載するのが正しいでしょう。
また遅刻したときは、その時間は働いていないわけですから、遅刻した分の時間を1カ月で集計し、その時間分の額を賃金から差し引くという手もあります(ただし就業規則に規定が必要です)。賃金はノーワークノーペイが原則ですから、遅刻した時間について賃金を控除しても違法とはなりません。
つまり山田花子の場合、遅刻した時間分の額を賃金から差し引くことにプラスして、制裁として遅刻1回につき3300円(一賃金支払期で2万円まで)を給料から引くことができたわけです。こうすれば今回違法とされた2万5千円より多くの金額を給料から減らすことができたでしょう。
労働基準監督署は法にのっとって処理していることについては、何も言ってきません。ですから、今後は就業規則を整備し、法に基づいた処理ができるようにしておくことが大切です。
今回は仕方ないので、山田花子に制裁として認められない部分を返還します。また就業規則は、今後、制裁を行うときに違法とならないよう変更することが必要です。その上で、労働基準監督署に是正の報告をするといいでしょう。
●是正報告書の書き方
是正勧告の指摘箇所
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是正報告書の記載例 |
〔減給規定が間違っていた〕
労働者山田花子に対する1回の減給の額が平均賃金の1日分の半額を超えていること。一賃金支払期間における減給の総額が当該賃金支払期間の10分の1を超えていること。 |
〔是正報告書の書き方〕
就業規則の減給制裁の内容につきましては、違法とならないよう変更し、平成○年6月1日に労働基準監督署長に届出ました。また労働者山田花子から制裁金として徴収した2万5千円につきましては、「1回の額が平均賃金の1日分の半額の減給」として計算し直し、○○円を返還しました。領収証の写し、就業規則の写しを添えて報告いたします。
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