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2005年02月02日(水) 動と静のはざまで揺れ動くリアルなイメージ
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日誌を書くのは初めてだが,パルマには何度も来ている。
いままでは仕事の現場を見させてもらったことはなかった。
生ハムが木のラックにぶら下げられて、乾燥しているところを説明してもらって回ったくらいだ。
朝早く部屋を出て「どんな行程を踏むんだろうか」という期待とイメージをしていた。
とにかく現場を見たことはないし,見るどころか撮影する機会すら、そうあることではない。
その瞬間瞬間の技を確実におさめようと集中していた。
工場に着いてまず、いつも通りファブリッツィオが僕を案内してくれる。
そしていつもと同じように乾燥させている生ハムを、熟成の期間ごとに回って教えてくれる。
毎回の事なので少し流して聞いていた。
するとsugna (スーニャ : 豚の脂) の固まりを見せてくれた。
いままで生ハムについていたsugnaは見た事あるし,説明の度に聞いていたが,
そのもの固まりを見せてもらったのは初めてだった。
そしてみんなが作業している現場に向かう。
木のラックは天井の上の方まであり、生ハムが部屋いっぱいに敷き詰められている。
生ハムの移動をしていた。
10kg位はある生ハムを一つ一つ手作業でラックにかけていく。
一見、単純な作業のように見えて、単純なんだろうが,
その作業になれるには、とてつもない体力と忍耐力が必要なんだろうと思う。
単調な作業と、重量のあるものを持ち上げる。
笑いながら仕事をしていたが,とんでもない力仕事である。
そしてその横では窓を閉めて空気を調整するファブリッツィオの姿も見られた。
その後、僕は別の現場に向かった。
肉が着いて3週間後の状態の塩が振られてある生ハムを目にする。
普段見ているのとは異なる、まさに生肉で完成品とは別物に見えた。
続いて行われたのが、その一つ前の段階、1週間後の生ハムに塩をふる作業。
生ハムをコンベアーに載せて4種類の機械で送る。
まず最初は塩を吹き飛ばす。
そして肉をマッサージして血を絞り出し,人の手が加わる前に一旦機械が塩をすり込む。
次に職人の手に渡り、塩がふられる。
職人の横には荒さの違う2種類の塩が用意され,水を加えたものとそうでないものになっていた。
まず骨頭と呼ばれる豚の骨に塩をすり込む。
そこから肉の内部に塩が染み込んでいくらしい。
そして肉の上方からパラパラと振りかける。
一見単純にやっている流れ作業のように見えるが、肉の重さはもちろん,
職人は瞬時に肉の大きさを見て塩を振る量を判断するといい、
それがこの仕事の難しさでもあるという,
ホントに信じられないくらいに単純な同じ作業の繰り返しを、
果てしなく続けられていくのをじっと見ていた。
午前中から始めていたこの作業は、午後になってもぶっ続けで行われていた。
生ハムを保存していた冷蔵庫から取り出し機械に送る。
塩を振ったものを棚に載せ,別の冷蔵庫に保存する。
そんな事の繰り返し。
映画を創る僕からすれば,毎回なにかしら異なる事が出来る。
かたや生ハム。
この作業の中で何かを見いだそうとするならば,よほどの感性が必要となるはず。
はたから見ているだけでも、単純な作業ですぐに覚えられそうな仕事である。
作業をしている様子は当然のように流れていくのだが,
仮にこの中に僕が入ったところでついていく事はできない。
とてつもない体力を必要とするからだ。
確かにこの仕事をメルダという気持ちもわからないでもない。
そんな仕事でも一生続けていく人間もいるのだし,
人は喜んでそのランギラーノのおいしい生ハムを口にするのだ。
仕事をバカにしている人間でも、とてもイタリア人とは思えない程、
仕事に対して真面目に取り組んでいた。
もしかしたら日本人なんかより真剣なのではないのだろうか?
午後に入ってからはまず、出荷前の生ハムへの焼印押しをしていた。
月に1回だけ行われる仕事とあって、これはまたとないチャンスだと思い撮りまくった。
中にはパルマの生ハム協会かなんかの人みたいなのがいて,
僕の撮るフレームをのぞき込んでいたが,僕がこんな事しているの見られて平気なんだろうか?
しかしこんな田舎町では、みんなが仲間・友達であり,そんなところで問題はないという。
さすがイタリア。
仲間内の輪は強い。
そしてまた塩振りの現場に戻る。
いまだに同じ作業が続けられている。
その横では出荷用の生ハムが箱詰めされている。
近寄ってみると、他と少し様子の違う生ハムがラックにかけられている。
「LA GROTTA」と書かれてあり,意味を調べると洞窟とか空洞となっていた。
僕はきっと失敗作なんだろうと思っていたが,実はそれはとんでもない間違いで,
この工場の中でも最高級・極上の生ハムらしい。
この工場、ガローニが所有する3つの工場の一つで、
他の新しい工場は近代的な製法でここよりも大量に生産されているようだが,
僕の来たこの工場は最も古く、製法も限りなく昔ながらの製法に近いらしい。
ランギラーノの中でも優秀なガローニの中で,
ここの工場のものが最もおいしいといわれ,
とすると世界中で最もおいしい生ハムがここから創りだされているといわれても過言ではない。
ということは僕は本場も本場でホントに極められたものを創る人々を訪ねているのである。
とんでもないことである。
この生ハム職人たちを取り上げるにあたって,
いままでとは異なる事に遭遇した事に気がついた。
いままで出会ってきた職人たちは特に個人の技が光る分野であったが,
ここで生ハムを作る人々は、個々の技の集大成が、多くの生ハムとなって生産されていく。
チームワークを要するということである。
そんないろんな作業現場があり,しかも何もせずにただ置いておくという事も大切。
僕がこの職人たちを理解するためには、仕事の全体像、それから流れを飲み込む事が肝心だ。
動という塩振りや肉移動の作業。
静というハムの熟成期間。
それまで静しか見る事のなかった僕も動を少し垣間みた事によって、
イメージが膨らんできた事は間違いない。
僕はとにかく動と静が同居するところで仕事の流れをつかみ取り,
どうやって表現していくかを探り当てなければならなかった。
そして彼らの活きている生活の中にも顔を出して、
職人としての本当の姿を、いい意味でも悪い意味でも見つけ出さねばならないのだ。
彼らは自分の仕事にホントに誇りを持って取り組んでいるのか?
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コメント
■動と静のはざまで揺れ動くリアルなイメージ
今回はどちらかというと内面よりも作業自体を前面に書きました。
見てきたものがとても新鮮に思えたのでそうしたのですが、
それによって見えたものがいろいろとあったので、
それはこれから映像に出していけたらと思っています。
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池田 剛 2005/02/07 07:12
■Re:動と静のはざまで揺れ動くリアルなイメージ
最新の製作日誌、早速拝見しました。
ほんとうにわくわくしちゃいますね。
素人の私なりに思うに、これ、すごいですよ!
こんな職人さんの作業工程なんて
普通きっと絶対にトップシークレット級の企業秘密なんじゃないですか?
こんなにじっくり説明つきで撮影!びっくりですよ。
池田さんと職人さん方とのこつこつ積み上げていった
まっすぐな信頼関係が感じられます。
職人さんひとりひとりの個性と人間性、
そこに池田さんが池田さん自身の職人技で切り込んで積み上げてる。
早く完成した「GLI ARTIGIANI」を見てみたい、とばかり思ってましたが、
改めて、時間をかけて積み上げていくのが
この作品の魅力なんだろうな、と感じてます。
ますますこれからの池田さんの職人技、楽しみです。
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たれみー 2005/02/08 16:16
■内容は濃く深く
ホントはまだ足りないくらい、いろんなことを聞いてきました。
それは僕の中に蓄積させるものであって、自然と作品の中に投影されていくことでしょう。
工場に一時期、監査のようなものが入っていて,
しばらくはパルマで撮影することが出来ないときもありました。
それだけに映像自体、普段ではなかなか見ることの出来ないものを撮っています。
ただそれ以上に心に響く協和音が奏でられるように、アドリブ撮影を敢行しています。
まだ表に出しているものはわずかではありますが,完成を楽しみにしていてください。
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池田 剛 2005/02/10 03:56
■Re:動と静のはざまで揺れ動くリアルなイメージ
池田さん、精力的に取り組んでおられるようで、何よりです。
マルコ工房のコントラバス到着以来連絡していませんでしたが、マルコの楽器はすばらしいです。
残念ながら、仕事に忙殺されて眺めるだけの日々が続いています。
楽器の感想をメールするとマルコにも約束したのですが、まだ連絡できていません...
しばらく後に、後日談を書きます。
失礼しました。
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新谷 2005/02/08 16:16
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