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2005年02月16日(水) 突拍子もないスパイス
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いつものことだが遠出するとただでさえ滞在時間が少ないので、早朝から動き出す。
今日も6時前の電車に乗り、各駅で4時間以上かけてラヴェンナまで向かう。
いままで何度もあったが、各駅の乗り継ぎ遅れ。
トランジットの時間はたった12分。
しかも乗り継ぎの便は僕の目指した時間くらいしかない駅。
ボローニャからは本数が多いので、間に合わなかったとしてもすぐに後発の電車がある。
しかしボローニャを出て数分,電車が煙を出してスピードが落ち、やがて止まる。
この国では往々にしてあることだ。
そして20分遅れてファエンツァ到着。
明らかに間に合わなかったので、ボローニャで降りた方が良かったのかもしれない。
少なくともファエンツァの前の駅で降りていた方が良かったのかも。
でもこの周辺のインフォメーションなどない僕には、当初の予定通りにするしかなかった。
駅の人間に聞くと一つ手前のカステルボロネーゼを経由して行くしかないという。
しかもそのカステルボロネーゼ行きは1時間後に来る。
ラヴェンナ行きに乗るにはカステルボロネーゼの方が便がよく見えた。
それは駅の路線図を見てから知った。
どうしようもないことである。
カステルボロネーゼ行きを待ち,ボローニャからのラベンナ行きも待つ。
そして予定より約2時間半遅れてのラヴェンナ。
いまのこの僕が遂行している旅は時間は貴重であるからして,
神経質になってしまうが,こういうケースが訪れる度に「またか」と思いつつ,
やりきれない怒りも込み上げてくる。
究極にポジティブに考えれば,多少の事では動じなくなる。
でも「感じる」ことに鈍感になる事は恐ろしい事でもある。
アーティストを探す道中
ラヴェンナに着き真っ先に街の中心 (チェントロ)まで行く。
チェントロを見たら大抵はその街の規模がわかるものである。
シンプルでチェントロ周辺に商店街が集まっているのを見ると,
小さいように感じる。
それでいてとても小奇麗にまとまっていて、とてもいい雰囲気だった。
ミラノなんかよりも数倍素敵な街だ。
僕はその後、真っ先にインフォメーションを目指した。
ラヴェンナで修行していた芸術家の岡田さんから頂いていたインフォメーションをもとに,
すべてリストアップした中からいくつか絞って訪問しようとしていた。
インフォメーションの人に備え付けの地図と、もう一つ英語の地図をもらった。
そして僕のリストのトップにあった住所を地図を見て調べる。
しかし見当たらないので聞いてみると,すぐ近くの通りの先がその住所の通りらしい。
番地が何百番にもなっているので、遠いからバスを使って行った方がいいという。
切符売り場もどのバスに乗ればいいかも聞いてインフォメーションを出るが,
教えてくれたおばちゃんのちょっと不思議そうな表情をしたのが気になっていた。
とにかく限られた時間はどんどん縮まっていたので,
モザイク画のある教会に行く事など後回しにして,目的のアーティスト目指していた。
教えてもらった住所に辿り着き,しばらく歩くと目的の住所に変わった。
まず番地は1番から始まった。
「うわっ、こりゃ長い」
と思いつつも,これまでのらりくらりと上手い事しのいできた僕は、
いつかたどり着けるとタカをくくっていた。
ミラノの感覚でいたのもあったかもしれない。
ミラノなら番地の間隔は短いからである。
なかなか来ないバスを待っているよりも少しでも先に進みたい。
それが僕の常なる心理である。
バスに乗る方がいいに決まっているけれど,とどまっている事に不安を感じるのである。
そして切符も買わずに歩き始めた。
到着まで30分もかからないと思っていた。
歩き始めて10分くらい。
線路をまたぐ陸橋が見え始めた。
「こんなの渡るのか??」
少しずつ不安になる。
でも番地はなかなか進まない。
どんどん歩く。
でも番地は100にもならない。
そして建物はスカスカで何百メートルも歩いてようやく番地が進む。
失敗したと思ったのはもう遅かった。
切符を買う事すら出来ないような場所まで来た。
バスはたまに走っている。
夢と同じだ。
歩き続ければいつかは必ずたどり着く。
そう信じて歩き続ける。
正に地で演じるロードムービー
「コンタクトが困難かも」
と岡田さんにいわれた事を思い出す。
何でなのか?
不思議に思っていた事の答えがこのとき明らかになったが,
その言葉を覆すためにも目的の人には会わなくてはいけない僕である。
2車線しかない田舎の道をひとり歩く。
歩行者など他にはいなく、自転車に乗る人くらいしかいない。
「どんな出会いが待っているんだろう?」
と想像するよりも先に、
「いったいあとどのくらいでたどり着くんだろう?」
大きな貨物車が残して行く風に飛ばされそうになりながら、
ヒッチハイクでもした方がよっぽど早くつくんではないかと考えていた。
電波少年みたいになってきたなぁ。
何度も道が分かれるところにさしかかったが,
番地の数字が極端に変わる事はなかったので,同じ通りを歩いているつもりだった。
何せ通りの名前の表示がないので確認できないのだ。
300メートルくらい歩いても番地は2つしか進まない。
ヨーロッパは例えば通りの右側が奇数の通りだとしたら、左側は偶数の通りになる。
ということは番地が2つ進むという事は実質的には一件先という事になる。
もしかしたらパルマ市内からランギラーノに行くくらい距離があるのではないだろうか?
そんな錯覚さえ覚える。
もうすでに2,3kmは歩いたかと思う頃,看板が寄せ集まっているところがあった。
よく見てみると通りの名前が書いてあって,それは僕の目指している通りの名前ではなかった。
「これはもしかして?」
どこかで別の通りに変わっていたのか?
でも間違いはないはずと思い歩き続ける。
しかし少し歩くとまた通りの表示があり,やはり別の通りの名前になっていた。
そしてその先を見ると、道がいくつかにわかれている。
この時点で僕はあきらめた。
通りの確実性を失い,番地を見てその先をイメージしても時間のロスが多すぎる。
そして再び同じ道を引き返す。
一体何度、親指を立てようと考えた事か?
でもひたすら歩き続けた。
思いもよらなかった出会い
帰る途中、バスの停留所で行き先はどこになっているのだろうかと調べていた。
よくわからない地名が並んでいて,まったく参考にならなかった。
そして道へ戻ろうとすると,車が止まっていて,運転しているおっさんが手を振って呼んでいる。
ドアを開けると「Ciao!」
ものすごく愛想のいいおっさんだ。
次の瞬間「Bacio」
「こ、こいつはもしかして・・」
Bacio とはイタリア語でキスの事である。
断ると笑いながら「OK!OK!」言ってくれた。
僕が向かっている方向がチェントロの方だったので,行き先を聞かれて「チェントロ」と言った。
でもとりあえずホントの目的を軽い気持ちで言ってみると
「じゃあ行ってみようか。待ってろよ。いま車を引き返すから」
ラヴェンナの人はとてもいい人だった。
それでもしきりに僕の事を Bello Bello と言ってくる。
やけにテンションが高く、僕の行き先をちゃんと聞いてくれて、
でも彼もわからない場所なので,通り沿いにある、
車のショールームに行って道を聞いてくれたりもした。
そしてその先に行っても見当たらなく,別の通りを走っている事に気づき,
ガソリンスタンドの兄さんにも聞いてくれる。
Che gentile!!
結局目的地は見つからなかったので,引き返す事になった。
しかしホントにいいやつだった。
本人は49で息子もいると言っていたが,そんなに老けても見えず,
ジェノバのロレンツォのような存在になってくれると期待したのが良くなかった。
彼も銀行に行かなくてはいけなかったらしく、チェントロ近くでおろしてくれた。
名前と連絡先を聞き,さらに写真を撮りたかったが「プライバシー」といって、何一つ得られなかった。
ただ乗車中にカメラを回してこの光景を少し撮っていたので、
このいかにもロードムービーらしい突拍子もないこの風景を使わせてもらおうと思う。
イタリア人の名前ではなかったがマットだという事を言っていたのは覚えている。
人がくれる本当の優しさ温かさというものは、
いつどこでやってくるかなんてわからないもの。
それは逆に求められる事もある。
そんなシチュエーションでも迷う事なく受け入れる事のできる自分でいられる。
そういう自然体で在ることのできる自分を、この映画を通して表現できたらいい。
戻ってきたチェントロで待ち受けていた事
あともう一月でサマータイムになるので,少しずつ日が長くなってきている。
とはいえまだ暗くなるのは早い。
街の中心を練り歩くよりも前にまずサンビターレ教会に向かった。
いずれにしても観光名所のモザイク画巡りがゆったり出来るような状況ではなかったので、
それはもともとあきらめていた。
僕の目的はサンビターレに行った事のある方ならご存知かもしれない,
ラヴェンナモザイク職人組合の共同作業所だ。
サンビターレの横を入って行くと、作業所が見えてくる。
ようやく本物のモザイクに出会える。
と、ホッとしながら入口に近づいて行くと,ドアに張り紙が貼ってある。
「Visitare per solo appuntamento」
アポイントのある人のみ入場可。
しかも写真は撮ってはいけないと書いてある。
「終わった」
中で数人の若者が作業しているのが見えるのにも関わらず,
僕はノックする事もシャッターを切る事すらできなかった。
隠し撮りの天才もさすがにすっきりとした気持ちで撮れなくて、
引き目に建物だけを撮影した。
僕のいつもの習性だが,マルコのところに行くにしても,ほぼ毎回アポなしで行く。
それが僕のスタイルなのだが,相手からしたら迷惑な話である。
でもなるべくそのスタイルを崩したくなかったので,アポは取らずに行ったが,
ここラヴェンナではアポは必要最低限のように思えてきた。
チェントロのポポロ広場のベンチに座り,調べてきた情報を確認する。
チェントロ周辺だけの地図を頼りに、持っている住所を照らし合わせてみる。
一件だけだが住所が見つかったので,早速そこへ向かう。
途中、くそミラノなんぞよりも素敵な街並にうっとりと見とれながら,
失敗だらけの今日の旅の垢を流し落として行く。
目的地近くに着き、詳細を確かめる。
それらしき建物が見当たらず,おかしいと思い,もう一度メモ書きの住所を見る。
ヨーロッパの住所にあたる通りの名前は、人の名前である事がほとんどである。
大抵、苗字で表示されているのだが,僕が来たこの通り,
苗字はあっているのだが,下の名前が違う通りだった。
イニシャルでたった一文字違い。
最後の最後で再び落とされた・・・
あとはラヴェンナマップを手に入れ、前向きに次回のための対策を講じるのであった。
そして恒例のトランジット付きの帰りの電車。
無難にボローニャ経由で帰る事にした。
ボローニャまでの各駅は、こんなことあっていいのかということが起こった。
というのは到着が5分早かった。
次のインターシティまでは1時間くらいあったが,その前のインターシティが10分遅れになっていたため,
間に合うかもしれなかった。
もう一度確認してから切符を買った。
そしてもう一度確認すると20分遅れに変わっていた。
これなら速攻で食べればマックもいける。
ガツガツ口にしてトイレもすませ,待ち合い所に行くと30分遅れになっていた。
もっとゆっくり食べれば良かった、と思ったのも束の間。
すぐに40分遅れに変わり,最終的に50分遅れになっていた。
それでも当初より早めに帰れたのは、イタリア国鉄ならではの妙。
感謝すべきか?
恨むべきか?
たまにはこんな事くらいあってくれないとたまらんですわ。
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コメント
■動け! 動け! とにかく動け!
いかにもロードムービーらしい登場人物が初めて出てきました。
自分の中ではだんだんらしくなってきた感じがして,
ますます面白くなっていきそうです。
今後もこういうハプニングがどんどん出てきてくれたら、
こしょうにもオリーブオイルにもなるんでしょうね。
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池田 剛 2005/02/22 07:45
■Re:突拍子もないスパイス
今回はずいぶん歩きまわったようですね。
なんだか読みながら「初めてのおつかい」を見てるような気分で応援してたので、
読み終わった後、自分まで歩き疲れたような(?)不思議な感覚でした。
ひとつひとつの出会いを決して無駄にはせず、スパイスとして取り込める存在にしている、
これは簡単なようでなかなか難しいことでしょう?
そう、出会ったときは普通の草木であるものを、自分の知恵と技と、
そして少しばかりの偶然で、美味しいスパイスに調合していく。
私はずいぶんと今まで草木を見過ごしてきたかもしれません。
自分次第で美味しく加工できただろうに。
そんなちょっとした出会いを大切にしていくことで映画も人生もいい味だしていけるんだろうなぁ。
とても大切なことを教えていただいたような気がします。
これからの私の人生、美味しく味付けしていって、
最期に最高の味わいを噛みしめられるようにしたいものです。
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たれみー 2005/03/03 22:55
■動け! 動け! とにかく動け!
実は僕も目の前に起こっている現象にとらわれてしまって、
フレームにおさめるのを忘れてしまい、いいシーンを撮り逃してしまうことがよくあります。
もったいないですね。
自分自身がロードムービーの主人公でもあるので,旅自体を自分が楽しんでいることもあるので許して!!
いろんなことが起こってホントに面白いですよ。
何かの目的のために動くと次から次から思いもよらないことが起こります。
それはその現象をその人がどう受け取るか次第でもありますが、
映画製作に限ったことではないはずなので、みなさんもチャレンジしてみてください。
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池田 剛 2005/03/12 07:45
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