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2007年08月29日(水) 時に気づく
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いつになくものすごく細かいところまでよく説明してくれる。
あまり見たことのない作業だし、
あまりやらない作業だとも言っていた。
「お前は運がいい」と......
仕事を見るにつけ、細かいところまでやっていることに気がつく。
イスの足の地につくところまでじっくりとヤスリがけしている。
職人だから当然と言えば当然だが、
生活している中で普通に気にかけない部分。
見逃してしまうようなところまできっちり手を入れる。
仕上がりを見れば手作業が入ったのがよくわかるだろうが、
それがいい味を出すのだろう。
あまりにも良く説明してくれて、
僕も聞き入っているから、
「学校のようだな」
「最低一年はかかるぞ」
と '先生' からたしなめられた。
本当は2年、いやそれでも足りない。
ずっとやっていくものだ、という。
それでこそ職人の仕事だ。
道具の違い
器具の説明まで入る。
カナズチ打ちを実際にやらせてもらえたが、
普通にトントンやっている作業は僕には難しく、
目標にすら当たらずヨレヨレ。
使っていたカナズチは、
マリアーノともう一人の別の職人が作った手作りのものだという。
一般に市販されているものと比べさせてもらうと、
やはり手作りの方が打ちやすかった。
ハサミも同様で重心が刃の方にある方がいいと。
使うハサミも状況に応じて様々種類はあるが、
確かにいいものはやっぱり違っていた。
言葉にしない自負心
「日本にはこの仕事はあるか?」
おそらくはないだろう。
タタミの生活が伝統の日本に、
何百年も前からあるイスの修復など考えられない。
「いまのこの時代のイスなんて、
使い捨てかゴムなんかを入れておしまい」
わざわざあえて手のかかるスプリングを入れる様式のイスなど、
作らないだろうし、そんな技術持たない。
スプリングの取り付け方。
マリアーノは事細かに説明してくれる。
梱包用の糸のような紙を丸めて太くした糸のようなもので、
イスにしっかり固定する。
その糸を取り付けるのにも、
交差するところで互いに接触しない様に取り付ける。
それが反発や安定性を強くするコツだという。
できたものを触らせてもらったが、
スプリング部分は断然強い。
ヤスリにも3種類あり、
きれいにそうじをする。
仕上げにニスを塗る。
気持ちの変遷
意外と細かいところに気を使っているのもわかった。
ヤスリがけしてできた粉を吹くのにも、
正面に僕がいれば、僕にかからない様に斜めに吹き、
空気のスプレーをかける時もそうしていた。
それまでにない優しさだった。
当初、映像を撮ることを嫌っていた彼も、
いまでは気を許した様に声をかけてくれ、
カメラを向けてもためらわない感じがする。
「待つ」ことで僕のいろいろを見てもらえたのだろう。
彼の仕事への執念も少しは見えてきたし、
僕の気持ちも少しは汲み取ってもらえているようにも思える。
なんとかよくなってきた。
来る度にいつ完成するのか聞かれるが、
まだ何とも答えていない。
クサいものには
細かい技術と、それをしっかりと説明でき、
形にできる能力。
優しさ、気づかい。
それだけ才能があるのに認められない。
なぜなら人々の多くが求めているものではないから。
それでいいのだろうか?
間近で見て「すばらしい、美しい」とわかるけど、
人は「便利、安い」
それでよしとする。
それが目をつぶれる範囲であるなら、
質などあまり問わない。
移ろいやすさ
いいものを作ろうとすれば、
コストも時間もセンスまでも問われる。
誰もがよくしたいと思っている。
でもその反面、目をつむらないといけないこともある。
現実に目を向ければ歩けなくなることなどいくらでもあり、
それは映画を作るにしてもそう。
誰もが抱えきれない悩みを持っている。
僕も職人もこれを読んでいるすべての人も、
それぞれ人にはわかってもらえないものがある。
その立場にならないとわからない。
そんなことは僕もマリアーノも痛いくらいわかっている。
何年もそんな立場にいながら、
それでもお互い生きている。
こだわりの陰
人々の満足できるいいものを提供する。
職人として生きる中では、
それができるほど風あたりのいいものでもない。
こだわりを持ちつつも、収支が見合わなければ、
あきらめざるを得ないなんてこともなくはない。
それが結果として人にトゲを作らせてしまうこともある。
気をつければなくせるものでも、
環境がそうさせるのは彼らのせいでもない。
答えを得るには多くの時を要する。
それでも人は生きている。
であるなら冗談でも言って、
楽しくしていられたほうがいい。
誰もが見えない将来に不安を抱く。
それでも人に優しさや安心を届けられるのが本当のこだわり。
奪い与える
材料費は高い。
需要は少ない。
時間はかかる。
数をこなせない。
収益は低い。
現実を見れば負のスパイラルにはまっていく。
それは誰もがわかっていることで、
それを盾に卑屈になるのも寂しいこと。
人を満足させること。
人の要求に応えていくこと。
技術 = 人間性。
これだけが人の信頼と要望をかなえていく。
自分の立場をわかってもらうよりも、
人の立場を理解することで、
お互いをわかりあえる。
マリアーノの優しさが気付かせてくれたのかもしれない。
この日、撮影した映像の一部を公開しています。
やりたくない - Verona 9
嘘をつかない - Verona 10
道具 - Verona 11
スプリング - Verona 12
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