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2006年01月13日(金) ライティングの妙

バイオリンの街に再び足を踏み入れた。

北イタリアの冬はとても寒く、体の先端は常に凍りつきそうな勢いだ。
久々に会う彼の温かさに触れて、心のとけるのを待つ。

もうどれくらい時を重ねたかすら忘れるくらい、
懐かしくもあり慣れ親しんだような工房に目を配る。
変わらない笑顔で迎えてくれるマルコ、奥さん。
そして鈴木さんもヤスリがけをしていた。

この日の工房の感覚は何とも言えないくらい、
いい雰囲気に包まれていた。
空間に遊びというか余裕ができていた。

この工房には特別灯りと言えるものはなく、
日中は外光を採り入れていて作業にはスタンドタイプのライトを使う。
この照明が撮影をするのにいい影響を与えている。
昔ながらのこの採光の仕方はカラバッジョの画と同じとも言える。
カプチーノをイメージしたこの映画に、
イメージ通りの雰囲気を散りばめてくれるのがこのライティングである。

暗い部分、まったくよけいとも思える遊びのある空間が、
明るさとの対比の中で絶妙なコントラストでバランスがきれいにとれていた。
工房の建物自体古めかしく、アナログを生み出させている。
それが人間本来の活動に近い形態で、妙に心を落ち着かせている。

そして工房にいる一人一人の創りだす空気が、
久々に訪れる僕の存在をも許してくれているようにも感じた。
それらがこの日は目に見える形にも顕在してくるのだった。


想像とリアリティ


クレモナのこのマルコの工房での撮影はブランクがありすぎた。
何パターンものシチュエーションをイメージして、
それぞれの状況下でのシミュレーションを想い描いていた。
それはマルコとの距離感を埋めるための作業でもあり、
マルコとの対峙の中でつくりあげる自分自身の成長のためでもある。

前々から温めていた質問をしてみた。
いくつかイメージしていた中の答えもあったが、
直接彼の口から聞けたことで納得することができた。

この作品の製作はある種、自分との焦りとの闘いでもある。
少しでも早く創りあげて皆さんへ届けたい。
そんなはやる気持ちをストップさせないといけないのは、
目に触れさせるだけの作品ではなく、
心へ届ける作品へと昇華させなくてはならないからだ。

そのためには人の心の中に踏み込んでいかなくてはならない。
彼を理解すること。

時の流れの生み出すハーモニー


時間がかかってしまうことに対しての焦りはあるものの、
時間が生みだす美しさにも魅了されていることも事実。
というのは映画にしても何にしてもいまのこの時代はスピードを求められる。

例えばホームページ一つ更新するにも、
たくさんの情報を流す方が人からの注目度は高いし、
それだけ人々の安心感を生む。
映画製作にしても多作で万人受けの
利益のあがる作品を生み出すクリエイターの方が、
製作者サイドには喜ばれそういった人材が求められる。
それは生きるための正解である。

それとまったく相対するところの存在が僕のいる場所。
人と人との関係は短期間のうちにつくりあげるものではなく、
ましてや人間関係という土台の上に描くこの作品には、
多くの交流から生まれる安心感と信頼感が感動を生むのだ、
という信念から出来上がるものである。

日本、特に僕が住んでいた東京には、
移りゆく一年に四季折々の独特な美しさがあり、
一つ一つの季節の特徴がはっきりとしている。
イタリアにはそこまでの確固とした区別はないものの、
それがイタリアであろうと日本であろうと人と人との交流の中には、
時を経ていくうちにお互いの対応が変わるような、
心の移り変わりゆく美しさというものがある。

それは良くもなるし悪くもなる。
結果は自分の心がけ次第。
僕はこの耽美的で静かな感覚は日本人独特のものであり、 
それとイタリア人の個性の融合がこの作品に顕在していくものであるとも思っている。


与えられた最高のモノ


この街に来る度にヒントを得られる。
それは他愛のない街の風景からであったり、
人の発している何気ない言葉からであったり、
今日のこの独特の空気を発している空間からであったりする。

それらはマルコや誰かしらから言って教えてもらうものではなく、
自分で気付き感じるものである。

僕のイメージしていた言葉とほぼ同じ、
彼との会話から得られた言葉には、
新しいヒントが散りばめられていた気がした。

僕は彼に許してもらえている。
理由はわからないけれども、そう感じているのは、
彼に踏み込み始めている証拠なのかもしれない。

そんな温かな空気の流れるこの工房で、
美の集結とも言える一枚の写真が撮れたのは、何かの力によるものだ。
あのシャッターを押す瞬間の感覚を忘れることはないだろう。

以前僕が製作した映画のチラシを最初マルコに会ったときに渡した。
それを今日、工房でアングルを探しているときにたまたま見つけた。

マルコは僕の企画のこともよく覚えていて、
工房に人が訪ねてくるたびに彼らに僕を紹介してくれる。

彼はとても人当たりがよく決してウソがない。
すべてが本気である。

僕を理解しようとしている彼の姿勢に応えて感謝を伝えたい。
それは僕ら 2人だけのものではない。
僕を通して彼を見る人々へのものでもある。

僕はこの工房に何度も足を運んで、
温かい空気に触れ、心癒され、彼の心を人々と共有することにしたい。




この日、撮影した映像の一部を公開しています。どうぞご覧下さい。

ヤスリがけ - Cremona1

光の生み出す美 - Cremona2

マエストロ - Cremona3



コメント

■ライティングの妙

この日の照明は心に響くものがありました。
それが明確に一枚の写真に焼き付けられています。
何がそうさせたのかいまだに不思議です。

マルコの人間性の部分についてあまり触れないのは意図的にしています。
というのは日誌に書いてしまうと本編を創る意味が薄くなってしまうからです。
マルコは映像で感じてもらいたいので、
日誌にはどんなやり取りがあったかはできるだけ出さないようにしています。
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池田 剛 2006/01/26 05:38

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