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2007年04月12日(木) カフェの似合うシーン

部屋履きから靴に履き替え、
ドアを開けると朝日がたれ込めてくる。
朝の涼しい空気とともに聞こえてくる声。

「ボンジョルノ」

アパートの名物オバちゃん。
年金生活でいつも顔を見せる。
住人すべてを知り、暗黙のうちに規律を取り仕切っている。
聞いてもいないのに世話を焼いてくる。

階段を下りていくと、上のオバちゃんと大声で話をするオジさん。
中庭は職人の工房の裏口とつながっている。
お互い年配なのに威勢の良さが駆け巡る。

アパートの門をくぐると南米系の門番。
グリーンのホウキと赤いチリトリで掃除をしている。

「チャオ」

これが僕の送っている朝の姿。
いつも変わることなく続いている。

置き去りに


クレモナに着くと大変なことに気がついた。
なんとクレモナでの撮影用ビデオテープはおろか、
スペアすら持ってきていなかったのだ。
とにかく買わねばと店を探し聞いてみるが、
売っているところが見つからない。

鈴木さんに電話して聞いてみると、
マルコの工房の近くに電気屋があると。
「今日は鈴木さんを撮らせて!」
というわけで学校帰りの鈴木さんとマルコの工房で合流した。

僕が工房に着いてすぐに鈴木さんも到着。
マルコは10分としないうちに工房の鍵を置いてさっさと帰ってしまった。
せっかく来たのに師匠はわりとあっさりとしていた。
鈴木さんをメインにと思っていたので、
それはそれでよかったのかもしれない。


笑い飛ばせ


鈴木さんは工房の鍵を預かるくらいのマルコの一番弟子。
僕とはプライベートでもよく会っているが、
普通に話をしていても気が合い、年代が近いこともあって、
経験してきたものを分かち合えるような仲でもある。

僕が経験しているイタリアが一部なら、
彼はきっともっと濃いイタリアの一部を経験していることだろう。
マルコ・ノッリという面白い人物のもとで生活していれば、
その生活サイクルから読みとる生き方というのにも、
興味を抱かずにはいられない。

工房で掃除をしながらも、
掃除一つにもこだわりを持ってやっている。
確かにそんな細かいことの一つ一つの積み重ねが、
自分という人間をかたどっていくのだろう。
映画みたいなもんだ。

しかしそんなことを考えている鈴木さんのことなんて、
「師匠はこれっぽっちも見ていないだろう」と彼は笑っていた。
子供のようなマルコを見ている僕も、否定することなく笑っていた。
イタリアらしい師匠と弟子の姿だ。


交差しない人


工房を出ると鈴木さんの学校の先生とはちあわせた。
カメラを手に横にいた僕をとりあえず紹介してくれた。
僕もとりあえず挨拶をしたが、
うん、何ともぎこちない感じがする。

当然といえば当然で、
顔を合わせたことがあるわけでもなく、
よく来ているもののクレモナを理解しているわけでもない僕。
たとえ相手がミラノの人だったとしても同じだろう。
イタリア人であろうとも日本人であろうとも。

僕自身のかもし出す文脈と、彼の文脈が一致しないからだ。

そして着いたのは楽器のギャラリーのようなところ。
ここはマルコ製作のコントラバスや宣材が置かれていた。
こんなところがわざわざ用意されていたのかと感心していると、
期間限定で借りているという。
鈴木さんは展示してある楽器を手にしては楽しそうにしていた。

うながされた空気


建てられてから何年と経っている鈴木さんのアパートへ向かった。

ミラノのようにクラクションや排気ガスが気になるようなことはなく、
人の流れもなく、とても静かでのんびりとしている。
道すがら、声をかけられる鈴木さん。
アパートの前でも挨拶を交わしていた。

ガランとした室内。
長い時の流れを感じる人々の残した香り。
耳を澄ませば聞こえてきそうな遠い過去の記憶。
清涼感を流し込む空間に、背中を押された気がした。


群像ステージ


ここは小さな街だけに、そこかしこに顔見知りがいるのだろう。
まるですれ違う誰もが知り合いのようにも見えてくる。

ミラノでもそこまでいかないまでも、
外にいれば顔見知りと出会うこともある。
大した話をするわけでもない。

「お前よく会うけど、いつも仕事で大変だなぁ」
「ホントはもうとっとと辞めたいんだけどね。しょうがないよ」
冗談で笑わせる。

「フォト、スービト (写真すぐにできます)」
ドゥオーモ広場にいるメガネをかけたエジプト人。
ドゥオーモ前でハトが飛び交う中を、
観光客相手にインスタントカメラで撮るのだ。
何を話すわけでもないが、よく顔を見て合図を送る。

ミラノに行ったことのある女性は知っているかもしれないオジさん。
ハデなボウシに自転車。
片言の日本語で愛想良く話しかけてくる。
人は良さそうで実際いい人だけど、ただのエロオヤジ。
イタリア語を教えてもらったり、アホな日本語を教えたり。
「君は面白い」からとカフェをおごってもらったり。

道ばたにいると日本語のプリントを訳してくれと寄ってくるオヤジ。
日本人の友達がいるらしく、自動翻訳のサイトを教えてくれという。
見た目はあやしいが、細かい気遣いがイタリア人らしくなくて好感が持てる。
日本語を文字化けさせないようにするにはどうしたら良いか。
たまに会うたびに、そんなことを聞いてくる。

人生のかけら


名前など知らない。
何者かも知らない。
でもよく見かけるから話をする。
一期一会の話をする輩もいるけれど、
他愛のない話をする知り合いもここあそこにいる。

見かけなくなると心配にはなる。
あの時間、あの場所に行けばあの人に会える。

いつもここにいる。
そんなリズムの中にある、それぞれは一日の断片。
ここにある僕の生活である。




この日、撮影した映像の一部を公開しています。どうぞご覧下さい。

気まぐれ - Cremona 10

スズキテイ - Cremona 11




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